小さな勇者達 9

 

 そのあともしんじろーは、フジヤマスターからはなれたがらなかった。
こわい思いをしたのになんで、って大人たちはふしぎそうだったけど、リカはわかる。
フジヤマスターはしんじろーが大好きなだけなんだ。
いじわるしたんじゃない。
だから怖いおもいしたって、しんじろーは思ってないんだ。
フジヤマスターがこのあと怒られるって思ってるんだ。

 結局、昴がしんじろーをだっこして整備室からつれてった。
しんじろーは真っ暗なスターのなかにいるときよりずっと大きい声で泣いた。
出て行くしんじろーとすばるをリカや王先生や整備士のみんなは見送った。

 「リカ殿は戻らないので?」
王先生がリカに聞く。
「うん。フジヤマスターをどうするのか見てからかえる!」
「スターを?」
「しんじろー、ぜったい、ふじやまくんどうなりましたかって聞くもん」
「そうですなあ……」
みんなでスターを見上げる。
スターがなんとなくしょげてるようにみえた。
しんじろーをなかしたからな。

 王先生はフジヤマスターのまわりをぐるっと一周した。
「外見はなんともないのですがのう」
「一度大掛かりな解体整備が必要でしょうか」
みんなしんけんな顔で話し合ってる。
解体っていったって、こわすわけじゃないんだけど、どこもこわれてないんだからやめてほしい。
「あのな、フジヤマスターな、しんじろーがいなくてさみしかったんだと思うぞ」
「ふーむ……」
「しんじろーがちっこくなっちゃったからさ、ええと、ふあんてい、だ。不安定になったんだ」
リカが言っても多分信じてもらえないと思う。
リカだって、よくわかんないし。
でも。
「僕もそう思う」
「すばる!」

 すばるは足音も全然しないし、いきなりうしろにいたりするからびっくりする。
いまもそうだ。
この部屋に10人以上いるけど、だれも昴に気づかなかった。
そのすばるが、まっすぐにすすんでフジヤマスターのひざに触った。
「新次郎を助けてくれてありがとう」
すごく、やさしいさわり方。
「この前、落ちた新次郎を助けてくれただろう、今日も、怖がっている新次郎を助けてくれた」
こわがらせたのもこいつだけどな!
「泣きつかれて眠ってしまったから、僕が礼を言いに来た」

 すばるは整備士や王先生に向き合ってフジヤマスターにあごをしゃくった。
かっこいいなすばる。
「僕もリカの意見と同じく、おそらくフジヤマスターは大河が子供になってしまったことで不安定になっているんじゃないだろうかと推測する」
「スターが、ですか?」
「大河は霊力の質も量も大きく変わってしまった。僕たちにも良くわからない力だ。一番影響を受けやすくシンクロするように造られているスターなのだから、何か症状がでてもおかしくないだろう」
「ふむ」
みんなよくわかんねーって顔。
リカもさいしょはわけわかんねーって思ったけど……。
「リカわかった!」
わかったんだ。
「フジヤマスターも子供になっちゃったんだな!」

 みんな目をパチクリした。
すばるも。
王先生だけ、すんごいまじめな顔でうなづいた。
「なるほど、たしかに、そうかもしれませんな」

 結局、フジヤマスターは解体しないで、かんたんな検査をいくつかすることになった。
どっちにしろ、しんじろーが大人にもどらないと、きちんと動かすのはむりだし、今むりに色々しなくてもいいだろうってことになった。
よかったよかった。
これでたぶん、しんじろーがまた泣かなくてすむ。

 

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スターって乗り主の性格をすごく反映した外観ですよね。

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