ちびじろにっき 5

 

 すばるたんが、おはなみできるばしょをみつけてくれました。
ちょっととおいところに、おはながあるそうです。
ちゃんとしたさくらのおはなです。
ぼんさいじゃないよ。
おはなみのひは、じぇみにたんが、おむすびをつくってくれるっていいました。
すばるたんはうめぼしがきらいだがら、うめぼしがはいっていないおにぎりだといいなあとおもいます。

 

 新次郎が描いた日記には、中央に、赤い丸が大きく描かれたいた。
ぐりぐりと力を込めて、奔放に描かれたそれは、他人が見れば太陽かと思っただろうが、昴にはわかった。
これはまちがいなく梅干だろう。
昴は苦笑してスケッチブックを閉じた。
新次郎に梅干の事を知られてしまったのは失敗だったが、こんな風に日記に残ると少し楽しい。
布団を盛大に払いのけ、おなか丸出しで寝ている新次郎の頭を撫でてやる。
「ふふ、心配してくれてありがとう」
ジェミニは、おにぎりにステーキを入れると言っていたので、おそらく梅の心配はない。
具がステーキというそれ自体が若干心配ではあるが、それもまた、少しばかり楽しみだったのだ。

 

 現地へは、加山とサニーサイドの車に分乗して向かった。
まだ街並みが霞み、薄暗い早朝だ。
いつもなら自分のバイクに乗るサジータだったが、今日は最初から飲む気まんまんだったので後部座席で余裕の表情。
昴は新次郎を加山の車の助手席に乗せ、きっちりとシートベルトをつけていた。
「ベルトなんて窮屈じゃないか? 俺は安全運転だから大丈夫だぞ」
「大丈夫じゃない。信用できん」
昴はきっぱりといい切って加山を睨み、新次郎に向かっては優しく微笑む。
「じゃあ、ここで大人しくしているんだよ」
「すばるたんにだっこがいいなあ」
朝から車を楽しみにしていた新次郎だったが、昴と別々に座ると知って少し寂しくなったようだ。
「僕もそうしたいけれど、加山の車は屋根がない。もしも事故にあったら抱きとめているだけでは危ないから。ほんの何時間かだし、僕はすぐ後ろの席にいるからね」
「はあい……」
「いい子だな新次郎は」
頭を撫でてやり、昴は後部座席に座って自分もシートベルトを装着する。
「おいおい、後ろはベルトいらないだろ」
「さっきも言ったが、加山、君の運転をまだ実地で体験していないし、信用できない。帰りに外して欲しかったらそれなりの運転を心がけてくれ」
「ボクは信じてるよ加山さん!」
ジェミニが力いっぱい宣言し、
「あたしはベルトなんて窮屈だからこのままでいいや」
サジータは背もたれに体を預けて足を組み堂々としたものだ。
加山の車に乗るチームはすでに準備万端。

 一方サニーの車に乗ることにしたダイアナとリカも、二人一緒に後部座席に乗り込んで、さっそく今日の昼食について話し合っていた。
「あのな、リカ、おやついーっぱい持ってきたんだぞ!」
「うふふ、わたしも、沢山クッキーを焼いてきましたよ」
「ほんとか!? やったー! くるくるくるー!」
「リカ、車の中で回っては駄目よ」
ラチェットが助手席から振り向いてリカを叱った。
「さて、ボク達が一号車って事らしいから、早速出発するとしようか!」
サニーははりきって車を発進させる。

 「おい加山、サニーなんかに負けるんじゃないぞ」
さきにサニーサイドの車が出たのを見て、シートに体を埋めていたサジータが身を乗り出してきた。
「はっはっはっ! 負けるわけがないじゃないか。俺の車は馬力が違う」
「サニーサイドの車は改造車だ。通常の状態よりも数倍パワーがあるよ」
昴はしれっと呟いて、それから扇を取り出した。
サッと開いてひらひらと見せ付ける。
「しかしあの車と競い合おうなどと考えない事だ。この車がかわいいのなら」
「こら昴! 安全運転するから! だから車に何もするな!」
「くるま、かわいいですよね」
最後は何もわかっていない新次郎がにこやかに返し、場の空気が一気に和んだのだった。

 そんなわけで、一行は全員揃って花見にでかけた。
ワンペアの二人は、毎日行うシアターの点検が終わってから蒸気電車で来る事になっている。
「新次郎、何時間かかかるから、眠っているといいよ」
「ねむくないです。あっあのばいく、すっごくかっこいい!」
新次郎は窓から見える景色に夢中だった。
かじりつくようにして張り付き、まったく眠る気配はない。
「やだねえぼうや、あたしのバウンサーの方が何倍もかっこいいだろう?」
「さじーたたんのもかっこいいですけど、しんじろうはあおいのがいいな」
「バイクよりもさ、ボクのラリーがいいよ! 今度乗せてあげるね」
「らりーたん、のりたい! いいですか、すばるたん」
「そうだね、ゆっくりだったら」
「やったー!」
「お前ら、俺の車をもっと楽しんだらいいんじゃない?」
そんな風に大騒ぎをしながら道中は進んだ。
昴は、途中で新次郎が絶対に眠ってしまうと思っていたのだが、彼はずっと起きていた。
ついにワシントンに到着した時、目当ての場所が薄桃色に染まっているのを一番最初に発見したのも新次郎だったのだ。

 

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日本人には桜がわかる。

 

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