キャットテイル 3

 

 【新次郎! 猫が消えちまったんだよ!】
大河が昴と二人アパートに戻り迷い猫のチラシを作る相談をしていた時、大河のキャメラトロンがけたたましく鳴った。
その内容がこれ。

 猫がいなくなってしまったと聞いて大河は真っ青になった。
ついさっきサジータに預けたばかりだと言うのに。
「昴さん、ぼく、探しに行ってきます!」
「落ち着け大河」
すぐに立ち上がり今にも駆けていきそうな大河を昴は静止した。
「でもっ!」
「良く考えろ。あの猫はもともと迷い猫なんだぞ」
大河はハッとなって昴を見返す。
「だから大河、いなくなってしまったのなら僕たちが探す必要はないんだ。家に戻ったんだろう」
「そうなら良いんですけれど……」
すとん、と椅子に腰掛け、大河はすっかりしょげてしまっていた。

 昴は立ち上がり、落ち込む大河に珈琲をいれてやった。
目の前に差し出すと、大河は大人しく受け取って溜息をつく。
「あの猫、なんだかすごく不思議な感じがして、ぼく、自分の猫みたいだなって思っていたんです」
「不思議な感じ?」
「はい。猫を見つけたとき、助けてって、ぼくに呼びかけてきたような気がして……」
「ふうん……」
昴は頷きつつ、消えてしまった猫の姿を思い浮かべる。
大河だけに懐いていた白い猫。
美しい瞳の色、その奥に宿る力を昴は見逃していなかった。
たいした力ではなかったけれど、間違いようがない。
あれは妖気だった。
普通の猫にはありえない怪しい力。
その力をもってすれば、助けてと意思を伝える事も可能だったのだろう。
けれども猫自身、芽生えたばかりのその力に気づいていない風だったので昴は黙っていたのだ。
ただの猫として生涯を終えるなら問題ないと思っていた。
いなくなってしまって関わらずにすむのならその方がいい。
大河がサジータに、気にしないようにと返信を打つのを確認し、昴は自分のホテルへと戻った。

 

 昴が帰ってしまったあと、大河はアパートの外に出て周囲を見渡していた。
昴はああ言ったけれど、やはり心配で。
あんな風に真っ白でふわふわで、どう見ても飼い猫だったから、見知らぬ場所で困っているのではないかと思うと居たたまれない。
本当に自分の家に戻っているのならそれでいいのだけれど、だったら最初からここに迷い込んだりせずに帰れたはず。
昨日猫を見つけた場所を一通り探して回ってから、大河はしょんぼり部屋へと戻った。
結局猫をみつけられなかったのだ。
玄関の鍵をあけ、誰もいない部屋に向かっていつもと同じように、ただいま、と言ったその時。
「にゃおん」
と、返答があった。
「わひゃあー!」
びっくりした大河が慌てて照明をつけると、部屋の真ん中に真っ白な猫が姿勢良く座っていた。
「お前! いつのまにここに!?」
大河が叫ぶと、猫はすいと立ち上がり、足音を立てずに大河の傍まで寄ってくると、しっぽをからませすりよってくる。
「でも無事でよかった、探したんだぞ」
喉を鳴らして甘えている猫を抱き上げ、大河はやわらかな体を撫でてやった。
「だめじゃないか、かってに逃げだしてきちゃ」
猫は左右色の違う瞳で、キラキラとまっすぐに大河を見つめてくる。
深い色の宝石のように美しい瞳。
サジータや昴は、この瞳に特別な価値を感じていたようだったけれど、大河には猫そのものの方がかわいらしく、美しく思えていた。
ハーレムからここまで、車通りも結構あったから、事故になどあわずに到着してくれて本当によかったと息をつく。
「それにしても、よくここまで戻ってこられたねえ」
サジータの家まで、猫は籠にいれたままでタクシーを使って行ったのだ。
道順など見えなかっただろうし、匂いもわからなかっただろう。
「すごく頭が良いんだなあ」
誉めてやると、猫は当然だというように、ふにゃあと鳴いた。

 

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犬とかだとままある(?)現象。

 

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