キャットテイル2−12

 

 サジータは眠っている二匹のネコをうっとり眺めながら何時間も過ごしてしまった。
かわいらしい生き物を見ていると時間が過ぎるのを忘れてしまう。
昴の黒猫は足先が靴下をはいたように白くてそれがとても気に入っていた。
しかしネコでも昴は昴。全然隙がないのだ。
眠っているのにきっちり体を丸めていて耳もピンと立っている。
その一方、新次郎の白猫は時間がたつにつれだんだん体がオープンになっていき、今は腹が丸見えだった。
ふわふわしたおなかの毛はとても柔らかそうだ。
触りたい。
ものすごく触りたい。

 しかしこのネコは、ネコではあるけれど同時に大河新次郎なのだと自分に言い聞かせ、触りたいという欲求を必死で押さえつける。
白猫はときどき尻尾をピクンとゆらし、前足で鼻先を覆うように動かした。
ピンク色の肉球が丸見えになる。
「うぐっ」
触るのを我慢しているのに、この誘うようなポーズを耐えろとは、ひどい拷問のようだ。
「の、喉ならいいよね……」
本当はふわふわのおなかに触りたかったが、それよりは。
そーっと喉元に触れると予想以上に新次郎の毛は柔らかかった。
「う、うおお……」
喜びに震えつつ撫でてやる。
すると白猫はゴロゴロと喉を鳴らし、丸くて小さい頭をサジータの手に押し付けてきた。
ぺらぺらの耳が折れ、笑っているような口元のピンクがとてもかわいい。
本当にネコそのものだ。

 サジータは心底ネコが好きだったが、なぜかそのネコには嫌われてばかりで、こんな風にじっくり撫でたことがなかった。
もうこのネコが新次郎だということなどすっかり頭から消え去ってしまい、ふわんふわんのおなかの毛も我慢できずに撫で回す。
「ぅにゃにゃ……」
小さい声で、白猫が何か言っている様子もたまらない。
もういっそ抱き上げてソファまで運び一緒に寝ようかと考えたときだ。
腹をなでまわしていた手首に、先だけが白い前足が、すっと乗せられた。
「すば……」
「しー」
静寂を促す人間のような音はサジータにも理解できる。
声を出すなと昴は言っているのだ。
黄金色の瞳が細められ、腕に乗った昴の前足に、力がこもる。
「……」
サジータは思わずゲッと声を出しそうになった。
昴の小さな丸い前足の先から、するどい爪がにょっきりとあらわになったからだ。
細くとがった爪は、サジータの手首に食い込んで、小さなくぼみをいくつも作っている。
黒猫はサジータに向けてわざとらしく口を開いて見せた。
するどい牙が暗い室内にギラリと光る。

 「わ、わかってる。わかってるって。ちょっと触っただけじゃんよ」
サジータはそそくさと腕を引っ込めたが、昴はゆっくり立ち上がり音も立てずにベッドから降りると、彼女のズボンの裾を咥えた。
「ちょ、穴があく……」
しかしますますひっぱられ、サジータは不本意ながらソファまで連行されてしまった。
やれやれとため息をつき横になると、昴も上に乗ってくる。
見張りのつもりなのだろうが、サジータは嬉しかった。
たとえ中身は昴でも猫には違いない。
素晴らしく優雅でスマートな黒猫と一緒に寝られるなんて夢のようだ。
ニヤニヤしているサジータを一瞥し、昴はサジータのすぐ横で丸くなった。

 横でふてくされたように丸くなっている猫の背中は、暗い室内でも素晴らしい光沢を放っていた。
ツヤツヤのスベスベだ。
新次郎の猫はフカフカだったが、昴の猫にも触りたい。
うずうずしてちっとも寝られなかった。
寝ぼけたふりして触ってしまおうなどと不埒な決断をココロの中で下した瞬間、ぐっすり眠っていたように見えた黒猫が振り向いた。
すかさずサジータが寝たふりをすると、昴はフンと鼻を鳴らし再び顔を伏せる。

 結局昴の黒猫には触れないまま、サジータはもんもんとソファの上で猫と戯れる誘惑に朝まで耐えるしかなかった。

 

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サジータさん幸せな我慢大会。

 

 

 

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