キャットテイル2−11

 

 サジータのおかげでようやく満足のいく食事をとった大河と昴は、二匹でソファに上ってよりそうように丸くなった。
あらがいようのない睡魔が襲ってきてどうにもならないのだ。
白猫大河は身をよじってくるんと腹を晒した。
ふわふわしたやわらかい腹部の毛があらわになったそのときだ。
「うおー! かわいいなーー!」
白黒二匹のネコが飛び起きた。
その二匹をすかさず両腕で抱え、サジータは容赦なく頬をすりよせる。

 昴はこのときようやく、ハルがサジータに近寄らない理由がわかった。
逃げ出そうと暴れても、サジータはがっしりと昴と大河をホールドしていてはなさない。
大河を奪われて、ハルなどまっさきに文句を言いそうだが、彼は人間の姿の今でもサジータに近寄らず、今も不満そうな顔でベッドに座ったまま三人の様子をじっと観察している。
その大河は暴れるでもなくサジータの腕の中で大人しくしていた。
困ってはいるようだったけれど、それよりもサジータの行動にあっけにとられているようだった。

 「ハル、彼女に通訳してくれないか。僕達はネコの生理上眠くてつらいんだ。開放してくれと」
「おっ、なんだ昴、にゃーにゃー言っちゃって。まるでネコみたいじゃないか。って、今はネコだったね。あはは」
サジータは心底満足そうだ。
ハルはハルで昴を無視し、相変わらず不機嫌そうなままそっぽを向く。
「ねえハル、ぼくからも頼むよ。サジータさんもそろそろ帰らないと夜中になっちゃうし」
大河が頼むとハルはようやく表情を少し和らげた。
そしてサジータに向けて手を振った。
「もうかえんなよ。ボクたちねるんだからさ」
ストレートな言いように大河はサジータが悲しむのではと心配したが、彼女は全然気にしていなかった。
「何いってんだい。あたしも泊まってくに決まってるだろ」
この言葉に昴と大河は驚いたのだが、ハルの反応はもっと早かった。
「だめだよ! ここはボクとしんじろうのいえだ!」
「坊や、誰が今日の夕飯を出してやったと思ってんだい?」
すごみを利かせてサジータの目が細くなる。
「朝飯は誰が用意するんだ?」
「で、でも……」
ハルがめずらしくたじたじと弱気になる。
「いいからまかせとけって。あたしは猫達と一緒にベッドに寝るからさ。あんたはソファで寝なよ」
「やだよそんなの!」
「狭いベッドに二人と二匹はむりだろ」
「あんたがソファでねればいいじゃん!」
「レディをソファで寝かせようとするなんて、マナーがなってないねえ。でも元がネコじゃ仕方ないかあ」
ぶつぶつ言いながら、サジータはネコ二匹をベッドに乗せた。
「あたしは風呂を借りてくる。あんたら一緒に入らないかい?」
大河はぶんぶん首を振り、昴は呆れたように目を閉じた。
ハルもサジータを無視して新次郎のネコをすかさず奪い返すと、小さな子供がぬいぐるみにするように、ぎゅっと抱きしめた。

 

 嵐のようなサジータが風呂に入ったため、ネコになった昴と新次郎はようやく落ち着いて目を閉じることができた。
ハルもその隣に横になり、大きなあくびをする。
サジータが風呂から戻ったとき、新次郎とハルはくつろぎきった格好で眠っていた。
昴だけは体を丸め、長い尾をきっちりと体にまきつけて、大河にくっついて眠っている。
さすがのサジータも熟睡している様子のネコを起こしてまで抱こうとはしなかった。
ただすぐ横にしゃがみ、ベッドの端に腕をのせ、弛緩しきった笑みを浮かべてネコたちの寝顔を眺める。

 昴は薄く片目を開いた。
サジータがニヤニヤニコニコと自分達を眺めている様子が大変に気味悪いが、これはもうどうしようもない。
彼女はとにかくネコが好きなのだから。
サジータがネコ好きなのは知っていたが、ここまでだとは思っていなかった。
顔を上げて抗議しても、サジータにはにゃーとかわいらしい声に聞こえるだけ。
ますます彼女は喜んで、またしても抱き上げようとするかもしれない。
だから昴は再び目を閉じ何も見なかったと自分に言い聞かせ、そのまま寝てしまうことにした。

 

 

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サジータさん至福のとき。

 

 

 

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