キャットテイル2−4

 

 昴をはじめ、星組の面々とサニーサイド、副官であるラチェット、さらにはワンペアと加山までが揃い、全員で作戦司令室に集っていた。
いつでも出発できるように戦闘服を着込み、地脈の乱れを探す。

 その全員の様子を、ハルは与えられた椅子に大人しく座って興味なさそうに見学していた。
時折あくびをし、巨大モニターに表示されている紐育の街と、地脈をあらわす緑の光点を視線で追う。
「ハル、出発するときは声をかけるから、眠っていてもかまわないぞ」
「ねないよ! しんじろうをたすけるまでは」
昴の言葉に反発するハルに、サジータは興味津々の様子だ。
「なあ、あんた、本当はあんときの猫なんだろ? あたしのこと、覚えてる?」
「おぼえてない」
ふん、と鼻を鳴らしてそっけなく答えるハルに、いつものサジータなら怒って当然なのだが、なぜか彼女は目じりを下げてそうかそうかと頷いた。
「ほんの30分ぐらいだったからねえ。またうちに遊びにおいでよ」
「いかないよ。ぼくはしんじろうのものなんだから」
「普通猫は家につくっていうけどねえ、義理堅い猫ってのもいいもんだね」
「すばるもそうだけど、すばるのともだちも、なにいってるのかぜんぜんわかんないな」
わざとらしく、ハルは大きなあくびをした。
本当は、サジータの事もしっかり覚えていたのだが、馴れ馴れしくされたり、やたら話しかけられるのが面倒で、覚えていないと答えたのだ。

 最初に気づいたのはダイアナだった。
ダウンタウンの空き地を中心に、かすかにエネルギーの流れが滞り始めていた。
「あ、あそこ、光が集まり始めていますね」
立ち上がり、ダイアナが指差す先は、血流のようにゆるやかにながれる緑の光点が、ごくわずかではあるけれど、ゆっくりになっていく。
「ふむ。穴があくかな?」
サニーサイドがモニタに近づきじっと観察するのだが、ゆるゆると動く光点は一向に広がっていかない。
「じれったいねこれ」
「そう簡単に穴が開いては困る。しかし今は……」
昴はうなり、腰をあげた。
「僕は現地に向かう。もしかしたら一瞬穴が開いてすぐ塞がってしまうかもしれないし、大河を取り戻すチャンスを逃すわけには行かない」
「ボクもいく!」
ハルも立ち上がり、青と緑の瞳を輝かせる。

 腰を浮かせようとする他のメンバーに向かい、昴は首を振った。
「君たちはここで待機して、他の場所にエネルギーの乱れが生じたらそこへ向かってくれ」
返事を待たずに踵を返し、昴は司令室から駆け出した。
すぐ後ろをハルがぴったりついてくる。
「ハル、コックピットはかなり狭い。一緒に来るなら文句を言うなよ」
「さっきのったんだからしってるよ。せまいばしょはきらいじゃない」
猫らしい答えを返すハルに、昴は気づかれないようそっと笑った。

 スターで発進してしまえば、目的地までは3分とかからなかった。
かすかに気脈の乱れを感じるが、日常でも充分起こりうる範囲のものだ。
エネルギーの吹き溜まりになるほど大きな乱れではないように思える。
意識を集中しても、大河の気配はまるで感じられなかった。
狭いコックピット内で隣り合って一緒に収まっているハルは目を閉じている。
「何か感じるか?」
「ん……、よくわからない。にんげんになると、ひげもしっぽもないから、おおざっぱになるんだよ」
そんなものか、と昴はため息をつく。
自分に何もわからずとも、敏感なハルなら何かわかるかもと思ってつれてきたのだけれど。
一旦引き返すか、そう昴が考えたとき、再びハルの体がくにゃりとゆがんだ。

 あっという間にぎゅうぎゅうだったコックピットに余裕が生まれ、青年の衣類が床にわだかまる。
代わりに白い猫がコンソールに前足を乗せ、耳とヒゲとしっぽをピンと立てたままモニターを真剣な顔で睨んでいた。
「何か感じるか?」
さっきと同じ問いをかけると、猫は振り返らずに、にゃーと鳴いた。
返事の後、にゃおーにゃおーと、振り返らないまま続けざまに鳴く。
さすがの昴も猫の言葉はわからない。
首を振り、わからない、と言おうと思った次の瞬間、
「うわっ!」
思わず声が出た。
突然視界が曇り、続けてまぶしいぐらいの光となった。
目を開けていられずぎゅっとまぶたを閉じ、再び開くとまぶしさも曇りもなくなっていた。
かわりに見慣れたコンソールが遠い。
「しんじろうのけはい、ちょっとだけどかんじるよ」
ハルの声がすぐ近く。
再びハルが人になったのだと瞬間的に思った。
しかし身を乗り出そうと右手を前に出し、
「!」
手のひらが獣の前足になっているのを見て、昴は小さな牙の生えた口をポカンとあけてしまった。

 

 

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さぞやふてぶてしいネコでしょうね。

 

 

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