キャットテイル2−3

 

 シアターに戻った星組の面々は、昴に注目していた。
私服に着替え、サニーも交えて楽屋に集合し、猫を抱いている昴をみんなが見つめる。

 みんなの視線を意識しながら、昴は咳払いをして猫をテーブルの上に放してやった。
「ハル、君は文字を読めるかい?」
白い猫に話しかける昴を、みんな困惑顔で見守っていたのだが、猫が首を振り、昴の言葉に答えたように見えたので、全員が目を丸くした。
しかし続いて起きた現象には昴も驚いた。

 白い猫の、青と緑の瞳がすっと細まったかと思うと、全身が淡く光り始め、飴細工のようにゆがんでグンと伸びた。
あっというまの出来事だった。
白い猫がいた場所に、同じぐらい肌の白い全裸の青年が現れた。
一瞬の静寂。

 「キャーーーー!!!」
最初の悲鳴は誰が発したのか昴にもわからなかった。
ジェミニとダイアナが同時に手のひらで顔を覆い、サジータがリカを捕まえて後ろ向きにする。
サニーサイドとラチェットはあっけに取られていたものの、騒ぎに参加はしなかった。
中心にいるハルは柳の葉のように整った眉を寄せ不機嫌そうに、ウルル、と、うなった。
「うるさいなあ」
腕を上げ髪をかきあげると、しなやかな筋肉が嫌でも目を引く。
昴がすかさず楽屋にあった衣装のマントをハルに羽織らせ、椅子に座るよう促すが、ハルは首を振った。
「にんげんのふくがほしい。ふくをきて、しんじろうのところにいかないと」
「その事が聞きたくてつれてきたんだ。君が何か知っているなら、僕たちに説明してくれないか」
ハルがとりあえず肌を覆ったので、みんなも昴の言葉に反応し顔をあげた。
注目を浴びたハルは、ふん、と鼻を鳴らしてから音もなく床に飛び降りる。
「しんじろうは、あそこにあったあなをふさごうとしてた。ふさがったとおもったら、きゅうにふきだしてきて、おっこちちゃったんだ」
「落ちた!?」
星組メンバーが唱和し、ハルは再び嫌そうな顔をした。
「すごいちからだった。おちたっていうか、ひっぱりこまれた。だから、そばにいたぼくも、すごいちからのいちぶをもらって、もとにもどれた」
「物理的な穴ではなく、地脈の中に落ちたんだな」
「ちみゃくってなんだかわからないけど、じめんのしただよ。ついていこうとしたんだけど、すぐにあながふさがっちゃってむりだったんだ」
「なるほど」
昴が一人納得し、扇で顔を覆う。
みんなは色々とわけがわからないという表情だったが、昴に聞くつもりなのか、今ハルを問い詰めるようなことはしなかった。

 ハルは昴の前に立ち、改めて自分のマントの裾をひっぱる。
「ふくをちょうだい、すばる。ねこのままじゃ、あのばしょをまもりきれないからすばるについてきたんだ」
「わかった。けれど、ハル。大河はあの土地にとどまっているわけじゃない」
「えっ、でも、あそこにおっこちたんだよ?」
「さっきも言ったが穴と言っても物理的なものじゃない。地脈だ。おそらく次にエネルギーのひずみが起きた時が大河を取り戻すチャンスだろう」
「あいかわらず、すばるはなにいってるのかわかんないよ。でもしんじろうをたすけられるんだね?」
「あたりまえだ!」
イライラと、昴がめずらしく大声を出したので、その場の全員が驚いた。ハル以外。

 ハルは頷く。
「それならねこにもどったほうがいいかもしれない。ちいさいあなでも、ぼくならとびこめる」
これに答えたのはサニーサイドだった。
「君が猫になったら意思の疎通が困難だ。少なくとも現場につくまではそのままでいたまえ」
サニーサイドに合図され、ラチェットが男物の衣装を持ってきてハルに着せてやった。
ぶかぶかのシャツと、同じくサイズの大きなズボンだったが、白銀の髪の青年には奇妙に似合っていた。
どこか浮世離れした印象がある。

 ひとごこちついたところで、サニーは全員の疑問を昴にぶつけた。
「で、昴、この人、じゃなくて猫? なんなの?」
その問い方がまったくのんきで人を食ったものだったので、昴もつい苦笑する。
「大河の飼い猫だ」
そう昴がきっぱり言うと、ハルはここに来て初めて、心底満足そうに笑い、そのとおりだとばかりに深く頷いたのだった。

 

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それが自慢。

 

 

 

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