キャットテイル2−2

 

 新次郎からの通信が途絶え、星組メンバーはすぐに現場に向かった。
ほつれのあった場所も、今は正常化してなんの問題もない。
「パッと、消えちまったんだ。地面に吸い込まれるみたいに」
近くにいた市民に事情を聞き、フジヤマスターは視覚的にも突然消えてしまったのだとわかった。

 「離れてくださいって、最後に叫んでたぜ。俺らには、ちょっと風が吹いてるようにしか見えなかったが、危険な場所なのかい?」
スターに乗ったサジータは黒人男性にそう問われ、
「今はもう安全だよ。でも万が一ってこともあるから、しばらくここは立ち入り禁止になる」
と答えた。
「そうか、あんたらの仲間、早くみつかるといいな」
情報をくれた人物は去っていったが、星組の面々は困惑していた。
公園はいたって平常で、なんの異常も感じられない。
ダイアナが意識を集中し自分たちの隊長の気配を探ったが、やはり見つからない。

 「もー! じれったいぞー!」
どすどすと足踏みしたリカが、大河の消えたと思われるほつれのあった場所に突撃しようとした。
「あ! リカ、危ないよ!」
慌ててジェミニが止めようとしたがすでに遅く、リカはみんなの先頭に立って走っていく。
そのときだ。
「うきゃー!」
急停止したリカ、現場の一歩手前でシューティングスターがひっくりかえり、騒々しい音が公園内に響き渡った。

 「リカ!」
慌てて集合した一同がリカを助け起こそうとする中、昴のランダムスターは呆然と突っ立っている。
芝生の上、真っ白な猫が、リカのスターに向かって毛を逆立て、するどく威嚇の声を上げていた。
「ハル……?」
マイクを通した音声を聞き、白い猫はランダムスターを振り仰ぐ。
サジータも猫に気づいた。
「あれ、昴と新次郎があたしんちに連れてきた猫じゃないか?」
サジータがスターで一歩前に出ようとすると、再び猫は警告のうなりをあげた。
「こら、そこにいると危ないぞ。踏んづけちまうじゃないか」
しっしと足で猫を追い払おうとしても、ハルは芝生の中央から一歩も引かない。
「やめろサジータ」
昴は友人をなだめ、周囲に人がいないことを確認してからハッチをあけた。
「ハル、僕たちは大河を探しに来たんだ。何か知っているか?」
ハルと呼ばれた白猫は昴に向けて、にゃーおと声を出し、続けて前足で地面を示す。
「そこに大河がいるのか?」
ハルはじれったそうにその場をぐるぐる回り、にゃおーにゃおーと訴えるように呼びかけた。
「あんた、猫に話しかけたりして、新次郎が心配なのはわかるけど、大丈夫かい?」
サジータの本気で昴を案じているような声音に昴はようやくハッとした。
気づけば他のメンバーも困惑した様子だ。

 「ゴホン」
わざとらしく咳払いした昴はハッチから身を乗り出す。
「ハル、ここでは埒が明かない。きちんと事情を説明してほしい。とりあえずこれに乗り込んでくれ」
しかしハルはその場を動かない。
その場を守るように、しなやかな四肢を踏ん張り、昴の目をじっと見つめている。
「動きたくないのか?」
にゃおーという返事を確認し、昴は頷いた。
「この場所には誰も入れないようすぐに封鎖し監視も付ける。君が説明してくれないと、大河はずっと見つからないぞ」
ハルは愛しそうに地面に鼻を寄せ、まだ動かなかった。
「僕が君に負けないぐらい、大河を取り戻したいと思っているとわかっているだろう? 誰にも立ち入らせない。協力してくれないか」
ちらり、と昴を見つめ、再び地面にキスするように愛しげに顔を近づけてから、猫は助走を付けずに体重を感じさせない動作で昴の腕の中に飛び込んできた。

 「杏里、プラム、聞こえていたか?」
「はい!」
「きこえてたわよん」
返事に頷き、昴はハッチを閉じる。
「ただちにこの場所を封鎖し、絶対に誰も入ってこないよう監視もつけてくれ」
「おい、昴、あんた……」
「今は何も聞かないでくれ、一旦シアターに戻ろう。事情はそこで説明するから」

 みんな、猫を連れて捜査を一旦打ち切るという昴に困惑した様子だったが、すでに飛行形態で飛び去ってしまった昴をほうっておくわけに行かず、全員でシアターへと帰還した。

 

 

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おかしくなったとサジータさんは思ったに違いない。

 

 

 

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