ぷちぷちみんと 10

 

 昴が新次郎を迎えに司令室へ出向くと、昼間散々遊んだ子供はまだ眠っていた。
起こすのはかわいそうだけれど帰宅の時間なのだから仕方がない。
毛布をめくって抱き上げようとして昴の手が止まった、
「……」
昼間と着ている服が違う。
違うだけならまだしも、今度もまた女装。
しかも見慣れたプチミントの衣装、いや、ただしくはルーシーの衣装だった。

 昴の動きが停止したのでサニーサイドも書類から視線をはずし、うーんと腕をあげて伸びをした。
仕事をしていてすっかり忘れていたが、そういえばワンペアの二人がやってきて子供を着替えさせていったのを思い出したのだった。
「よくできてるよねえ」
「これは……杏里がつくったのか?」
「そうみたいだよ」
かつらをかぶっていないので中途半端ではあるが、それはまぎれもなくプチミントの子供版。

 昴は苦笑する。
このまま出て行ったらまだ残っているメンバーたちが大騒ぎだろう。
しばらく待ってから帰ろうか、と思案して、ふとテーブルの上に無造作にのせられている金髪のカツラに気づいた。
「……」
無意識のうちに、昴はそれを新次郎の頭にそっとかぶせてしまった。
「ふふっ」
キャメラトロンを取り出して一枚二枚と撮影する。
見ていたサニーサイドがあきれたように笑ったせいで、昴もハッと正気に戻った。
コホン、と咳払いしてから内ポケットにキャメラトロンをしまう。
「新次郎」
なにもなかったかのように声をかけると、新次郎は、ううーん、と子犬のようにかわいらしい声でうなった。
目を開けないまま手を伸ばして、昴にだっこをねだる。
「こまった子だな」
口では文句を言ったが表情は優しさにあふれた笑みで、昴は新次郎を抱き上げた。
背中を愛情こめてぽんぽんと叩いてゆすりあげる。

 その様子が本当の親のように見えて、サニーサイドは肩をすくめた。
もしかして自分も、この小さな大河新次郎と一緒にいるときは父親のように周囲には見えているのかもしれない。
自分では友人のつもりで接しているのだけれど。
教師のように見られるのも親のように見られるのも嫌だったので、今後は意識して気をつけようと決意する。
昴はそんなサニーサイドの葛藤を知ってか知らずか、気にする様子もなくソファに腰掛けた。
「あれ? まだ帰らないの?」
「このまま出て行ったらまた大騒ぎになる」
サニーサイドを見ないまま答えるその表情は相変わらず慈愛に満ちていた。
「新次郎もまだ眠っているし、もう少しここにいて、みんなが帰った頃に僕たちも帰るよ」
「いいけど、ボクはあと10分ぐらいで終わるよ」
「じゃあ10分」

 10分の間、昴はずっと本物の母のようにやさしい表情で新次郎を抱いていた。
サニーが帰り支度を始めると、昴は新次郎の額にそっとキスをする。
「新次郎、帰るよ」
「ぅうーん……、すばるたん……?」
「そうだよ、起きられる?」
聞くと新次郎は昴の胸に顔をうずめて抱きついた。
「ねむいです……」
「いまそんなに寝てしまうと夜眠れないぞ」
笑って立ち上がり、新次郎をおろしてやった。
目をこすりながら大あくびして、それで新次郎もようやく目が覚めたようだ。
「顔を洗ってから帰ろう。サニー洗面所を借りるぞ」
「ハイ。イッテラッシャイ」
顔を洗っている間も、新次郎は鏡にうつった自分の変化に気づいていないようだった。
寝る前に来ていた服も、今着ている服も、デザインこそ違うものの、どちらもピンクのワンピースだったから違いに気づかないのかもしれない。

 サニーと一緒に部屋を出ようと、昴がドアノブに手をかけたまさにそのとき、扉を反対側からノックされた。
「おじさま、昴さん、まだいらっしゃいますか?」
「だいあなたん!」
顔をあらって目が覚めた新次郎がまっさきに返事をして、両手でドアノブをつかみ、よいしょよいしょと重い扉をひらいた。

 

 

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ぴんくのすかーと というくくり。

 

 

 

 

 

 

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