ぷちぷちみんと 11

 

 目の前に現れた小さな子どもを見てダイアナは硬直した。
これはなに? 夢かしら。
一瞬思考がよぎったあと、ふっと意識が遠のく。
「ダイアナ!」
すかさず昴が抱きとめて事なきを得たが、まだダイアナは目の前がチカチカしていた。

 「こ、こ、この、ステキなお衣装は……」
「ああ、杏里が作ってくれたんだよ」
その言葉に新次郎はきょとんとした表情だ。
本人はまだダイアナに買ってもらった服を着ているつもりだったのだから。
服をひっぱってじっくり見るが、なんとなく違っている気もするけれどよくわからなかった。
そもそも着替えた記憶がない。
「あんりたんがつくったおようふくが、おみせでうってたの?」
不思議そうな顔。
昴は思わず吹き出してしまったが、しゃがんで説明してやった。
すなわち、今着ているのは、新次郎が寝ている間に杏里が着せてくれた服で、最初の服とは違うということ。
話を聞いても新次郎は納得できていないようだった。
「しんじろーはおきなかったの?」
「うーん、僕はその場にいなかったからわからないけれど、新次郎が覚えていないなら寝てたんじゃないかな?」
新次郎は不満そうに口を尖らせたが、服が変わったことではなく、自分が目覚めなかったことが納得できなかったらしい。

 パシャッ!
会話の最後にカメラのシャッター音が響いた。
「ダイアナ……」
「あ、ごめんなさい! あんまりかわいらしくて……」
昴は苦笑する。
さっき自分も散々彼の寝姿を撮影したのだ。
間違ってもダイアナを責めたりなどできない。
「いや、かまわないけれど、なんていうか……」
笑うしかない。
「僕も君も、本当にこの子にメロメロだなと思って」
そういうと、ダイアナは真剣な表情でうんうんと激しく頷いた。
「今日、動物園でも沢山お写真を撮ったんです。焼き増ししたら差し上げますね」
「ふふっ、ありがとう」
なんだか盛り上がっている二人を見上げて、新次郎は昴のすそをひっぱった。
「すばるたん、おきがえしてからかえります」
「ホテルに戻ってからでいいよ」
昴が新次郎を抱き上げると、不満そうではあるものの、新次郎はそれ以上着替えたいとは言わなかった。
おそらく面倒くさかったのだろう。

 「そうだダイアナ、僕のほうも新次郎の写真が少しだけれどあるんだ。必要だったら……」
「必要です!」
昴が言い終わる前にダイアナが身を乗り出して答えた。
スカイブルーの瞳に瞳孔が大きく開いて興奮の度合いを示している。
「じゃあこれから僕の部屋に来るかい?」
「いいんですか?」
「今日新次郎を見ていてくれたお礼だ。よければディナーを一緒に」
「よろこんで!」
それを聞くと新次郎もたちまちうれしそうな笑顔になった。
「だいあなたんもいっしょにおうちにいくの?」
「そうだよ」
やったー! と、子供らしい素直な喜びを表現し昴にしがみつく。

 それを見ていたサニーサイドは、自分も混ぜて欲しいといいたかったが黙っていた。
おそらく昴はうんと言わない。
昴もダイアナも、邪魔のいないところで新次郎について楽しく語りたいのだ。
この場合、むしろ邪魔なのは大河君かもなあ、と、シミジミ思う。
考えてみると、大きな大河新次郎も、彼女たちの話題の中心であるときはむしろ邪魔者扱いだった。
きゃっきゃと出て行く三人を見送って、サニーサイドはなんとなく一人で寂しく食事する気分になれず、優秀な副官にディナーを誘うメッセージを送った。

 

 

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