ぷちぷちみんと 9

 

 杏里は衣装部屋にこもっていた。
すごい勢いで蒸気ミシンを踏み、部屋中にダダダダダ、と、機械の音が鳴り響く。
「わたしったら、なんで気がつかなかったんだろう」
ぶつぶついいながらも、決して手を止めない。
そこへ遠慮がちにノックの音が響いた。
返答を待たずに扉が開く。
顔をのぞかせたのはプラムだった。
「杏里、コーヒーもってきたわよ」
「ありがとうプラム、そこ置いてといて」
ミシンから目を離さない。
わき目も振らずとはこのことだ。
プラムはあらあら、と笑って、近くのイスに腰掛ける。

 何を作っているの? とは聞かなかった。
一目見れば一目瞭然だ。
「タイガーにプチミントの衣装を作ってるのね?」
「うん。ビバ・ハーレムの服」
杏里はようやくミシンを踏む足をとめてプラムに振り向いた。
どうやらひと段落ついたようだ。
ふう、と息をつき、作品を広げて確認する。
「ちっさい大河さんがこの衣装でチラシを配ったら、お客さんがたくさんくると思わない?」
「杏里ったら、本当はその服をきたタイガーが見たいんでしょ」
プラムがからかうと、杏里は一瞬で赤くなり、ポカポカとプラムを叩いた。
「ち、ちがうもん! わたしはただ……」
その反応も予想通りだったプラムは、杏里を自分の胸に埋め込むようにして抱きしめる。
「わかってるわかってる。できあがったのなら早速もっていきましょう。ねっ」
「うん! あ、でも、ちょっと休憩してからにする。プラムのコーヒーのみたい」

 自信作を持って、杏里はプラムと一緒に司令室を訪れた。
サニーサイドは杏里の持っている衣装を見て口の端をあげる。
星組もそうだけれど、ワンペアの二人にとっても、プチミントは特別な存在であるらしい。
「大河くんはまだ眠ってるよ」
広いソファの上ですやすや寝ているのは、まだ女の子の服をきたままの新次郎。
寝にくかったのか、はたまた昴がそうしたのか、金髪のかつらははずしてテーブルの上においてある。
「着替えさせたらさすがに起きちゃうわよねえ」
プラムは腰に手を当てて思案したが、サニーは肩をすくめてみせた。
「大丈夫じゃないかな。ワンピースだし、サツと脱がせてサッと着せれば」
「サニーサイド様ったら」
上司の大胆な言葉に杏里は笑ったが、笑ったわりには体が行動に移っていた。
上掛けの毛布をめくっても、新次郎はぴくともしない。

 杏里とプラムは顔を見合わせた。
「ササッと、よ、杏里」
真剣に頷いて、杏里は新次郎のワンピースを、みごとなまでに「ササッと」脱がせた。
以前、大人の大河新次郎も同様にササッと脱がせた経験が生かされている。
新次郎はむにゃむにゃ言ったがサニーサイドの言うように目を覚まさない。
目が覚めたかどうか、杏里は確認しなかった。
今度はできあがった衣装を持って、サササッと着せる。
脱がせるときよりは、頭を通したり袖をくぐらせたりと時間がかかったが、なんとか着せられた。が。
「んんー……」
新次郎はねぼけた様子で目を開けて、杏里とプラムをぼんやり見た。
「あんりたんとぷらむたん……」
二人は息を飲んで動きを止める。
「おやすみなさい……」
再び新次郎のまぶたがくっつくまでほんの数秒だった。
杏里は少しの間、着せたワンピースの裾の位置を直したりしていたが、満足したのか再び新次郎に毛布をかける。

 ワンペアの二人は長々とため息をついたが、満足そうにうなずきあった。
どうやら無事にミッションをクリアできたようだったから。

 サニーサイドも仕事の手をとめて、面白そうに見学しながら口を挟む。
「別に起こしても平気なのに、みんな大河くんに甘いよねえ」
「あらサニー、子供に睡眠は大事よ。それにタイガーに甘いのはサニーだって同じでしょ」
しゃがんで新次郎を眺めていたプラムは立ち上がって、自分の上司に見事なウインクを贈った。

 

 

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子供ってほんと起きない。

 

 

 

 

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