ぷちぷちみんと 8

 

 「あれ? すばるたん?」
目を覚ました新次郎は、むにゃむにゃと昴に抱きついた。
「もうおかえりのじかん?」
「まだだけど、眠いのならサニーのところでちゃんと寝ないと風邪をひくぞ」

 昴は新次郎を抱き上げて歩き始めた。
司令室まで連れて行こうと思ったのだ。
新次郎もおとなしく頷いて、小さくあくびをする。
まだ半分夢の中といった風情。
その新次郎に、昴はさりげなく聞いた。
「部屋に鍵をかけるのは面白いアイデアだったね」
「あっ、そうだった、しんじろう、かぎしちゃったんだった」
どうやら忘れていたらしく、新次郎は目を見開いた。
「すばるたん、どうやってはいれたんですか?」
「うん? 僕は鍵をあける魔法が使えるんだよ」
ふふっと笑うと、新次郎は真剣な顔。
「しんじろーにもこんどおしえてくれますか?」
魔法を微塵も疑っていない。
しかし鍵を開ける魔法を教わったところで、その魔法をいつどこで使うつもりなのだろう。
「どこの鍵をあけたいんだい?」
ためしに聞いてみると、
「?」
新次郎は逆に不思議そうな顔をした。
昴もつられて首をかしげる。

 エレベーターに乗り込み、屋上へのボタンを押して、新次郎を抱えなおすとそこでようやく新次郎は答えた。
「うーん、……どこもあけません。いきたいとこはあいてるもん」
これには昴も本気で苦笑してしまった。
「ならなぜ鍵を開ける魔法をしりたいのかな」
子供の考えることは実に不思議だ。
大人の大河新次郎も不可解だったけれど、もう少し先が読めた。
けれど子供の新次郎は当たり前の事なのに、というような表情で、
「だってしんじろう、まほういっこもつかえない」
と、口を尖らせた。
その一言でたちまち昴も理解する。
別に使用目的などなくてもいいのだ。
小さな子供なのだから、魔法というだけで覚えたいと思うのは当然かもしれない。
ささいな冗談のつもりで言った言葉だったが、思いがけず新次郎が真剣だったので昴は少々罪悪感が沸いた。
しかし今更嘘だったとも言えない。
「教えてあげたいけれど、魔法は大人にならないと覚えられないんだ」
と、仕方なくまた嘘をつく。
「そっかあ……」
予想通り少々ガッカリした様子だったけれど、新次郎はそれ以上、魔法を知りたいとねだったりはしなかった。
彼自身、鍵を開ける魔法にそれほど魅力を感じなかったのかもしれない。

 屋上へついたエレベーターから、司令室へと歩くあいだ、昴はふと気になって聞いてみた。
「新次郎は、今、魔法が使えるとしたらどういう魔法がつかいたい?」
迷うかと思ったが、新次郎は即答した。
「おっきくなりたい!」
眠気も一緒に吹き飛んだようだ。
「大きく? 大人になりたいのかい?」
「はい、おとなです! おっきくなったら、いろんなことができるんですよ」
目をきらきら輝かせ、新次郎は昴の腕のなかで手をふりあげた。
「いろんなこと、いっぱい、いっぱい。かぎをあけるまほうも! くるまとかばいくのうんてんも! それにおっきくなったらすばるたんをまもれるようになります!」
女の子の服を着て、金のカツラをつけた子供は、夢見る少女にしか見えなかったが、語る内容は立派な男の子だ。

 司令室をノックしてあけると、サニーサイドは書類にサインをしていたが、顔を上げ新次郎の格好をみると、ヒューと口笛をふいた。
昴は新次郎の機嫌が悪くなるかもと、黙っているように視線で促したが、新次郎の方が、
「さにーたん、しんじろーのふく、さぷらいずですか?!」
と元気一杯に発言した。
サニーサイドも満面の笑みだ。
「ああ、素晴らしいサプライズだ!」
子供と大人の男二人は何が楽しいのか大笑いしあって、昴を大いにあきれさせたのだった。

 

 

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子供新次郎は純粋だった。大人新次郎はもっと汚れたお願いをするかもしれない(昴さんと××とか)

 

 

 

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