ぷちぷちみんと 7

 

 稽古を続ける昴たちの元へダイアナが顔を出した。
舞台の上を見て、あら? という表情になる。
続けて客席を見たダイアナはきょろきょろとあたりを見渡し始めた。
「どうしたダイアナ」
彼女の様子にいち早く気づいた昴が声をかけた。
「大河さんは叔父様のところですか?」
「!」
昴はすぐに事態を察した。
あの子の所在がわからないのだ。
「確認してくる」
音もなく舞台から飛び降り風のように駆け去ってしまった。

 劇場を飛び出した昴は屋上へのエレベーターへ向かう途中急ブレーキをかけた。
なぜか、そこに強く心をひかれたのだ。
すなわち楽屋の扉に。
「新次郎?」
そっと声をかけてみるが返事はない。
続けて扉を引いてみたが、がちりと抵抗があって、鍵がかかっているとわかった。
普段楽屋には鍵をかけない。
けれど新次郎がそんなことをするだろうか。

 廊下を星組の面々が心配そうに歩いてきた。
昴を追って新次郎を探しに来たらしい。
楽屋の扉の前で立ち止まっている昴を見て不思議そうだ。
昴は振り返って全員を見ると、人差し指を口元に立てて静かにしているようにと促した。
「多分新次郎はこの中にいる」
ささやくように言って、少し楽しそうに笑った。
「ふふっ、どうやら女装させられてすねているようだよ」
みんな顔を見合わせた。
大きな大河新次郎も、プチミントの格好をさせられるといつもなんとなくすねていた。
何度も女装させられるうちに諦めたのか慣れたのか、それもなくなってきたけれど、最初はかなり抵抗があったようだ。
今、あんなに小さい新次郎が同じようにご機嫌ナナメなのだと思うと少し面白い。
サジータは苦笑しながら肩をすくめてみせた。
「困ったお姫様だね。鍵を持ってくるかい?」
「どうかな……新次郎?」
もう一度、最初よりもやや大きな声で話しかけるがやはり返事はなかった。
「しんじろー寝てるんじゃないか?」
リカが目を輝かせて扉の前に立った。
「リカが起こしてもいいか?」
すばやく二本の銃を抜き放つ。
いったいどんな手段で起こそうというのか。
しかし昴は落ち着いてリカを制した。
「うーん、本当に寝ているのなら起こしたくないのだけれど……」
考えているうちに、いつのまにかその場を離れていたジェミニが駆け戻ってきた。

 「ボク、鍵もってきたよ!」
かぎ束を頭上でぶんぶん振りながら廊下を走ってくる。
それを受け取った昴が全員の顔を見渡して、同じく全員が頷いた。
満場一致となったところで、昴は鍵を使って楽屋の扉をそぅっと開いてみた。
天岩戸はあっけなくあばかれ、はたして目当ての子供はやはりソファにもたれてすやすやと眠っていた。
みんな苦笑したり安堵のため息をついたり。
リカはイシシ、と笑って、
「すねてるわりに、まだおんなのかっこうなんだな!」
なるほど新次郎はまだプチミントの姿だ。
ソファにもたれかかってナナメになったまま眠っているので、そのカツラはすっかりズレてしまっているけれど。
サジータもあきれたように、
「案外気に入っているんじゃないか? デカイあいつもそうだったみたいにさ」

 みんなも同意するように頷いていたが、昴だけは違うとわかっていた。
新次郎はやっぱり女装が好きではない。
大人の新次郎はさまざまな事情で妥協する必要があり、結局は女装を受け入れたけれど、今の新次郎は小さな子供だ。
そういう部分では大人の彼よりも、いっそう男の子らしさにこだわる年齢だった。
おそらく彼は、服を用意してくれたダイアナや、喜んでくれたみんなの事を思って、服を脱がなかったのだろう、と。

 

 

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似合っていても嫌なものはいや。

 

 

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