ぷちぷちみんと 6

 

 ちいさなプチミントの姿に大喜びしたのは星組の面々だけではなかった。
「きゃっふ〜ん!」
プラムはダイアナにつれられた新次郎を見た瞬間、ローラースケートで滑り寄ってそのままの勢いで子供を掬い取るとしっかり抱きしめた。
おおきな胸にえんりょなく。
「にゃうん、プラムったら!」
これが元の新次郎だったら逆に新次郎のほうが叱られていただろうが、今回は別だ。
「わたしもだっこしたいのに〜!」
杏里は着物の袖を振り回して主張した。
けれどプラムが腕を緩めた途端、新次郎はするりとプラムの胸の間から抜け出してそのまま逃走してしまった。
「ああーん、プラムったら、なんで逃がしちゃうのよー」
だっこしそこなった杏里は文句たらたらだ。
「楽屋に逃げちゃったみたいですね」
ダイアナは苦笑してカフェのイスに腰掛ける。
ちいさなプチミントが逃げてしまったのは残念だけれど、一日中歩き回ってさすがに体力の限界が近かった。
「コーヒーをいただけますか?」
「いいわよん、ステキなレディを見せてくれたお礼に、とびっきりのを淹れてあげる」
プラムもウインクした。
楽屋に戻ればみんながいるから、あの子が一人で戻っても大丈夫だろう。

 

 一方、ワンペアの二人のところから逃げ出した新次郎はダイアナとも分かれてしまったので、昴のいる楽屋に戻ろうと廊下を走っていた。
大きな楽屋の扉をうんうんとひっぱってようやく開けたのだけれど、さっきまで全員がいたその場所には誰もいない。
「あれえー?」
みんな休憩を終えて舞台に戻ってしまったのかも、と、舞台のほうに進もうとしたのだけれど、あちら側にはワンペアの二人がいる。
思い直して止まり、新次郎は楽屋に戻って扉をしめた。
クッションのきいた丸いイス。
そのうえに、よいしょよいしょとよじのぼり、鏡にうつった自分をみる。

 金色の髪をした女の子。
それが自分とはとても思えない。
昴といっしょに暮らすようになって、いろんな髪の色の人とも知り合った。
シアターにだって、ダイアナやラチェット、プラムのように金髪の人がいる。
けれど、自分がその金髪になってしまうとものすごく変な感じがした。
つんつんとひっぱってみても、カツラだから痛くない。
「へんなのー」
確かにみんな、この格好をみて驚いていたし、喜んでもいたようだけれど、やっぱりちょっと面白くない。
かわいいわね、といわれるより、カッコイイといわれたい。
カツラを取ってしまおうかとも思ったけれど、ぎゅっと抱きしめてくれた昴の事を思い出してとどまった。
おおはしゃぎするみんなと違って、昴は特別、女の子の格好をした自分を、ぎゅーっとしていた気がする。

 新次郎はイスを降り、トコトコと歩いて扉のまえにたつと、背伸びをしてドアの鍵をカチリとまわした。
鍵をかけてしまうとすごく悪いことをしているように思えてドキドキする。
「きゃーっ」
子供らしい高い声で小さく叫んで、新次郎はソファに飛び込んだ。
「おるすばんみたい」
くすくすと笑って、ソファに顔をうずめる。

 

 新次郎が小さくなってしまってから、彼がこんな風に一人きりになることはほとんどなかった。
仮にそうなったとしても、必ず誰かが、彼が一人きりになっていることを認識していた。
そのたびに迷子だなんだと騒ぎになっていたけれど、今日は誰も気づいていないせいもあっていたって平穏。
のんびりとした雰囲気は新次郎にも伝わっていた。
昼間さんざん動物園で遊び、そのあと買い物に引っ張りまわされた新次郎は、いつの間にか昼寝の時間もとっくにすぎていた。
なれない格好で疲れていた新次郎は、部屋の鍵をかけたまま、いつのまにかソファの上ですうすうと眠ってしまっていた。

 

 

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悪い子じろー楽しそう。

 

 

 

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