ぷちぷちみんと 5

 

 ダイアナに手を引かれ、ちいさな女の子にしか見えない服をきた新次郎は、少し緊張しながらシアターの玄関をくぐった。
エントランスには誰もいない。
新次郎は少しだけガッカリ、おなじぐらホッとして、ダイアナを見上げる。
「みなさん楽屋でしょうか」
ダイアナは上機嫌のままで、頬が少し赤い。
何も喋っていないのに、ときどき、うふふ、などと言いながら歩いていた。
そんなにこの女の子の服が気に入ったのかな? と、新次郎は首をかしげる。
ダイアナはいつも優しくて穏やかで大好きだったけれど、今日のダイアナは新次郎の知っている彼女となんだか少し様子が違っている。

 楽屋の前に立つと、ダイアナは足をとめ、胸に手を当てて何度か深呼吸した。
そして新次郎の手をぎゅっと力強く握り、さあ、と頷く。
「いきますよ、大河さん」
「は、はい」
またしても緊張してきた。
そっと扉をひらき、まずダイアナが部屋に入る。
すぐにみんなが振り返った。
「おう、おかえりダイアナ。新次郎のやつ、動物園に入ると人が変わっちまうだろ」
サジータが楽しげに声をかけた。
「いいなーダイアナさん、ボクも動物園いきたいよ。馬もいるんだよね」
「リカもいきたい!おいしそーなどうぶつがみたいぞー!」
元気の良い二人に苦笑しながら、新聞を読んでいた昴も顔をあげる。
「おかえり、新次郎をみてくれてありがとうダイアナ」
そして、彼女の足元に隠れたままでてこない子供を見て首をかしげる。
「どうした新次郎」
昴の声に、みんなもダイアナの足元に注目した。

 ダイアナに促され、新次郎はおずおずと顔だけぴょこりと出してみた。
そのとたん、
「キャー!」
黄色い叫びが室内に響き渡り、びっくりした新次郎はあわてて顔を引っ込める。
「えーちょっと! うそー!」
一瞬でソファの上に飛び乗ったジェミニは大興奮。
「マジかよ、ちゃんと見せてみろ新次郎」
身を乗り出して興味津々なのはサジータだ。
リカはすかさず飛び出して、ダイアナの後ろに隠れている新次郎をすでにじっくり眺めている。

 昴はしばし目を丸くしていたが、立ち上がると新次郎に近づいた。
「でておいで新次郎」
「きゃーっていわない?」
さっきよっぽどびっくりしたのか、新次郎は大きな目を潤ませた半泣きの表情で昴に手を伸ばした。
思わず、昴はうっとうめいてしまった。
とてつもなくかわいい。
けれど動揺を悟られないよう優しく頷いて、抱き上げてやる。
みんなを振り返ると、サジータとジェミニは口を手で押さえていた。
叫ばないという意思表示のつもりらしい。
「みんな新次郎がすごくかわいかったからびっくりしたんだ」
ソファまで戻って一緒に座る。
「びっくり? さぷらいず?」
見渡すと、みんなコクコクと頷いている。
それでようやく新次郎も安心できた。
えへへ、と笑うと、作戦の立案者であるダイアナも大いに満足そうだった。

 ジェミニは新次郎の座るソファの、すぐ横に飛び乗った。
もう遠慮していられない。
「かわいいねえ新次郎! すごい、プチミントのちび新次郎だね!」
「小さいとますます女の子と区別がつかないなこりゃ」
サジータも頭をかいた。
「おっきくてもぜんぜん男ってわかんないけどな!」
リカが、いししし、と笑うとみんなも苦笑交じりの声をあげた。
そんな中、昴だけはコメントを控えていた。

 なんとも複雑な気分だったのだ。
ものすごくかわいいのだけれど、かわいすぎてシャレにならない。
誘拐されてしまったときの事を思い出してしまいそうになり、昴は咳払いをした。
それと同時に、プチミントとデートした時の事が鮮明によみがえってきた。
不意に彼と会いたい気持ちが猛烈にわきあがってきて胸が苦しくなる。
「……すばるたん?」
「うん?」
少し不安げに見上げてくる新次郎の頭をなでてやり、そのままギュッと抱きしめた。
「すごくかわいいよ新次郎」
そんな、芸も色も何もない平凡な感想をつぶやいて、新次郎を抱いたまま昴は深いため息をついた。

 

 

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大人だったら素直に大喜びするのに。

 

 

 

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