ぷちぷちみんと 3

 

 「大河さん、お買い物をしてから帰りましょう」
「おかいものですか?」
新次郎とダイアナは手をつないで五番街を歩いていた。
ダイアナはちいさな新次郎がかわいくてしかたがなくて、握った手のひらのぷにぷにした感触にくらくらしっぱなしであった。
しかし今日は気を失ってしまうと介抱してくれる人物がいない。
なによりこんな場面で倒れるなどもったいなさ過ぎる。
かくしてダイアナは気合で己の意識を明瞭に保っていた。

 「はい、お買い物です。シアターのみなさんにおやつなど……」
「おやつ?!」
とたんに新次郎は目を輝かせた。
大人の新次郎も甘いものが好きだったけれど、たとえばミルクチョコとビターチョコがあればビターの方を選んだ。
彼は好んでそうしているようなふりをしていたが、シアターの誰もが、本当は彼がミルクチョコのほうが好きだということをしっていた。
その証拠に、誰かが「あービターチョコのほうなくなっちゃった、そっちが食べたかったのに」などといえば、嬉々としてビターチョコを差し出し、自分はミルクチョコを食べた。
どうやら大人の男の矜持として、あんまり甘いものに目がない様子を見せたくないようであった。
だからみんなそれをわかっていたけれど黙っていた。
交換したミルクチョコを受け取ってニコニコと甘い甘いチョコを食べる姿を見て、みんなも幸せな気分になったものだ。

 子供の新次郎は、自分が甘いもの好きだということを隠したりしない。
食べる量ではリカにかなわないけれど、お菓子と聞けば目を輝かせる。
ダイアナは微笑んで新次郎を見下ろした。
「大河さんは何が食べたいですか?」
「!? えっと、えっと……」
欲しいものがありすぎるのか、新次郎は口をやや尖らせ、真剣な表情で考えながら歩く。
ダイアナはうふふ、と声に出して笑い、新次郎のふわふわした頭頂部を眺めた。
本当は、昴のように新次郎をだっこして歩きたかったのだが、体力的に無理だ。
昴さんはあんなに小さくて細いのに、なぜ大丈夫なのかしら、と、うらやましくも不思議に思う。

 「さあ、まずこのお店に入りましょう」
考え事をしながらダイアナに手を引かれて新次郎はお店の入り口をくぐる。
「おかしのおみせじゃないですよ?」
そこはかわいらしい子供服の店だった。
「大河さんにかわいらしいお洋服をプレゼントしたいんです」
「おようふく?」
ちいさな男の子が総じてそうであるように、新次郎はあまり服に興味がなかった。
昴が色々と着せてくれるものをそのまま着ていて不満もない。
プレゼントというと、お菓子やおもちゃや絵本が頭に浮かぶのだった。
「だいあなたんが、しんじろーにおようふくくれるの?」
「はい」
にっこり笑うダイアナに、新次郎は首をかしげた。
お菓子ぐらいならいいと思うけれど、洋服を買ってもらってしまってもいいのだろうか。
ちょっとだけ困っていると、ダイアナはすぐにそれを察してその場にしゃがむと、新次郎に目線を合わせた。

 「今日わたしが買ってあげる服を見たら、昴さんも、シアターのみなさんも、それはそれは喜ぶと思います」
「すばるたんも?」
「ええ。皆さんきっとびっくりしますから」
「びっくりって、さぷらいず?」
サニーサイドの部屋に入り浸っているだけあって、サプライズは知っている。
「はい。サプライズです」
サプライズはすごくいいもので、人生にはとっても重要なんだとサニーは毎日のように新次郎に言い聞かせていた。
「じんせい」がどういうものなのかはよくわからなかったけれど、ダイアナに服を買ってもらうと、昴やみんなにサプライズができるらしい。
「だいあなたん、しんじろーおようふくほしいです。さぷらいずしたい!」
そのとたん、ダイアナの目がキラリと輝いた。
こくりとうなずくと、こぶしに力をこめて立ち上がり、決意と喜びのまなざしで店内を見回したのだった。

 

 

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本人に自覚がなくとも、しめしめと思っているダイアナさん。

 

 

 

 

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