ぷちぷちみんと 1

 

 新次郎が動物園から貰った年間パスポートのおかげで、昴は時間に余裕ができるたびに新次郎をセントラルパークへ連れて行くはめになった。
数回行けばあきるだろうと思っていたのだが、新次郎の熱心さは衰えず、最初に彼を動物園につれていったサジータが話していたように「動物の檻に張り付いて離れない」状態だった。

 サジータが大げさに言っているのだろうと最初は彼女の話を真に受けなかった昴だったが、
ことこの件に関しては全面的にサジータが正しかったと苦笑する。
新次郎のお気に入りは、もちろん友達になったという虎の檻。
ちいさな彼が柵にしがみついて声をかけると、大きな虎がのっそりと近づいて檻によりかかるようにドスンと寝転がる。
檻からはみ出る黄金色の毛皮、ゆっくり揺れる縞模様の尾。
なるほどそれはとても優美で、昴も見ほれずにはいられない。
虎は大抵新次郎に背を向ける形でピタリと檻に体をつけて寝転がり、ときおりチラリと新次郎を眺めるのだが、そのしぐさは虎の専門家ではない昴が見ても何を訴えているのか明らかだった。
「なでて欲しい」
と、その虎は言っている。
しかし柵から檻は遠く、どんなに新次郎が手を伸ばしたところでもちろん指先すら届かない。
もし仮に虎の方も全力で前足を伸ばしたとしても届かないだろう。
新次郎はいつも虎に触りたそうにしているが、昴としてはたとえどんなにおとなしい虎で、新次郎と「友達」になったと言われても、触れることは二度としないで欲しかった。

 けれどこうやって安全な場所から眺めるだけならばむろん問題はない。
新次郎は残念そうだけれど、いくら彼に甘い昴とはいえこの願いをかなえてやるわけにはいかなかった。
そんな風にせっせと動物園に通い、動物園の職員ともすっかり仲良くなった新次郎は、動物たちの名前まで完全に暗記していた。
できるなら毎日通いたそうな新次郎だったが、さすがに昴にそんな時間はない。
休日につれてきてあげるのが精一杯だ。

 「それでねえ、きてぃちゃんがねえ」
「子猫でもいるのかい?」
サジータが一瞬身を乗り出したが、
「キティというのは雄ライオンの名前だ」
という昴の冷たい一言で再びソファに体を沈める。
新次郎はずっとそんな調子で目を輝かせながらおしゃべりした。
「はやくまたどうぶつえんにいきたいです」
ちらりと昴を見やるのだが、昴は苦笑しながら頭をなでてくれただけだった。
「ごめんね、次の公演が近いから、しばらくはいけないよ」
「はあい……」
しょんぼりしてしまう姿は誰が見ても保護欲を掻き立てる。
そこで椅子をひっくりかえす勢いで立ちあがったものがいた。
「わたしが連れて行ってあげます!」
はいっと手を上げ、宣言したのはダイアナだ。
興奮で瞳孔が開いている。
「でもダイアナ、パーク内は結構歩くよ?」
「動物園には何度も行っていますし大丈夫です!」
そういえば彼女は動物が好きでパークの動物園にもたびたび出かけていると聞いたことがあった。

 「だいあなたん、つれてってくれるんですか?」
新次郎は期待に目を輝かせ昴とダイアナを交互に見た。
確かにダイアナは今回の舞台でわずかしか出番がなく、時間に余裕もある。
しかしまったく出番がなくヒマなはずのサジータは声をかけてくれるなとそっぽを向いているのだった。
どうやら前回で新次郎の動物好きに懲りたらしい。
「本当にかまわないのかいダイアナ」
「はい。わたしも久しぶりに動物さんたちに会いたいですし」
うふふ、と笑い、
「わたしと一緒に行きましょう大河さん」
と、小さい新次郎の両手を包むようにぎゅっと握った。

 どうもダイアナは新次郎が小さくても、大きな彼にするように接する。
新次郎は両手を握られて少し驚いた顔をしたものの、すぐに満面の笑みになって昴を見た。
「いっていいですか? すばるたん」
「うーん……」
新次郎が喜ぶことなら何でもすぐに良しと言いがちな昴も、彼の独特な動物鑑賞法には思うところがあったのですぐに了解してやれなかった。

 

 

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あんまりない組み合わせであります。

 

 

 

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