わいるどらいふ 6

 

 見知らぬ親子についていった新次郎は、肉食獣のエリアを出口に向かうたくさんの人たちと一緒に歩いていた。
「さじーたたん、こっちにいるんですか?」
見上げる女性は、そうよ、大丈夫だから心配しないでね、とやさしく微笑んでくれるのだが、やはり心配だ。
女性の娘、新次郎と同年齢ほどの女の子も、大きな動物やサイレンの音が怖いのか、母親の足にしがみつくようにして歩いている。

 周囲の人々は、みな出口には向かっているものの、あわててはいなかった。
サイレンが鳴っているけれど、その理由がわからなかったせいもある。
たぶんなにかの間違いだろう、ぐらいに思っていた。
だから整然と出口に向かっていた人々は、サイレンに続いて聞こえてきたアナウンスに半ばパニックになってしまった。
《……大型の肉食獣が檻を逃げ出しました。これは訓練ではありません。全員パークから避難してください》
みんな一瞬足を止め、続いて自分達がいるエリアを確認し、蒼白になる。
駆けつけてきたパークの職員が叫んだ。
「ここは危険です! 虎が檻を破って脱走しました。今すぐ退出してください!」
さっきまでざわついていただけだった人々が、一斉に悲鳴を上げた。

 「わ、わっ」
人々の声にびっくりした新次郎が目を丸くしていると、我先にと逃げ出す人々がおしよせてきた。
人の波に巻き込まれ、大人の足しか見えない。
そうこうしているうちにいつのまにか親子とはぐれてしまっていた。
それならやっぱり待っているよう言われていた場所に戻ろうと後ろを向くと、パークの職員が、人々をせきたてるようにして後ろから誘導してくる。
「急いで!」
「しんじろーはあっちにいきたいんですけど……」
のんきに声をかけると、まだ若い職員は眉を吊り上げてこぶしをぶんぶん振った。
「もう向こうには行けないよ! さあさあ、はやく!」
彼も逃げ出した大型猫科の動物などに出会いたくなかったので必死だ。
新次郎は仕方なく誘導されるままに進んだ。

 肉食獣のエリアを脱出し、次のエリアも半分ほど進むと人々も大分落ち着いていて、もう誰も走ったり叫んだりしていなかった。
走ったり叫んだりしていた人々は、もうとっくに出口に到着していたせいもある。
親子の姿はなかった。
彼女は避難に積極的だったので、いち早く脱出した組に含まれていた。
後ろからせきたてる職員もいつのまにかいなくなっていたので、新次郎は歩くのをやめて振り返る。
「さじーたたん、おこってるかなあ……」
向こう側に戻らないと叱られるのではないだろうか。
きょろきょろと周囲を見渡すが、歩みを止めたのは新次郎だけだったのですでに周りに誰もいない。
新次郎はもう一度誰も見ていないことを確かめてから、そーっと来た道を戻り始めた。

 

 「さじーたたーん」
誰もいない肉食獣のエリアで、こっそりサジータの名前を呼んでみた。
サジータはもちろんだが、そもそも新次郎の他に誰もいない。
「とらさん、どこにいるんだろう」
幼いとはいえ、新次郎も虎が脱走したというさっきの職員の話は理解していた。
だからなるべく目立たないよう、すみっこを歩いていたのだけれど、点在する檻を回り込むように配置されている、入り組んだ植木がガサガサと動くのが見てしまった。
思わず息を詰め固まってしまうと、その植木の陰に溶け込んでいた美しい獣がのっそりと姿を現した。

 

 

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大河、というよりもちびじろーですが。

 

 

 

 

 

 

 

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