わいるどらいふ 3

 

 セントラルパーク内の動物園に、サジータは新次郎の手を握って入場した。
うっかり迷子にでもさせてしまったら昴に殺される。
身長差がありすぎるのがやっかいだったが仕方がない。
若干新次郎を引きずって歩いてるような気がしないでもないが、いよいよとなったら抱いていけばいいさと気軽に考え、休日でそこそこ混雑したパークの中を進んでいく。

 新次郎は動物園が楽しみなあまり、緊張した面持ちで、小さな足をせっせと動かし、サジータについていく。
「さじーたたん、あれみて、おおきなとり」
一番最初の鳥のエリアに入った途端、新次郎はパッと顔を輝かせ、檻を囲む柵に張り付いた。
「白頭鷲か。カッコイイだろ、この国の象徴だぞ」
「かっこいい。しんじろうよりおっきいですねえ」
ほう、と感嘆のため息をついて、新次郎はうっとり鷲を見ている。
「ほら、次いくよ」
「はーい、あっ、あのとりもすごい!」
今度は隣の檻の前に張り付いて、新次郎はまた動かなくなった。

 こんな鳥なんかのエリアはさっさと通り過ぎ、大型猫科の動物エリアに行きたかったサジータはいきなり出鼻をくじかれた。
なにせ新次郎は、動物一匹一匹をあきるまで眺め、しかも声をかけない限りは飽きないときた。
片手を繋いだまま、どうでもいい鳥などをいつまでも見ているのはサジータにとっては苦痛でしかない。
ためしに放っておいたら五分経っても動かなかったので、あきれて声をかける。
「どんどん行かないと他の動物がみられないよ」
そう脅すのだが、
「でも、しんじろーはとりさんもみたいなー」
と、未練げにまだ先まで並ぶ鳥たちの小型な檻を眺めている。
「わかったわかった。じゃあさ、あたしゃそこのベンチに座って待ってるから、じっくりみといで」
サジータはついにあきらめ、手を放すと鳥エリア全体が見渡せるベンチに腰掛けた。
自由になった新次郎は、はーいという返事もドップラー効果付で、目当ての鳥たちの檻に向かってかけていく。

 「やれやれ、ま、今日は時間もあるしまあいいけどさ」
ベンチに背中を預け、腕を背もたれの後ろに乗せて、だらしない格好でサジータは走り回る新次郎を見守った。
あっちの檻、こっちの檻と走り回り、さっきみたばかりの鳥の檻にもう一度戻ったり。
新次郎の元気にサジータはあきれた。
まず、移動時、常に走っているのが信じられない。
ようやく戻ってきた新次郎は、大満足の様子で頬を紅潮させていた。
「よし、じゃ、次に行こうか」
「はい!」
まだまだ元気には余裕があるらしい、歯切れのよい返事。
サジータはまた新次郎の手を握り歩き始めた。

 次のエリアは草食獣のエリアだった。
鳥たちよりもずっと大きな柵、ずっと大きな体。
はじめてみる動物達の姿に、新次郎はますます大興奮のようだ。
「わあー、さじーたたん、あのつの、すごい、ぐりぐりしてる!」
レックスのねじれた角を一頭一頭観察し、どの角がカッコイイだの、あっちの角はすごく大きいだのと離れようとしない。
さっきとは比べ物にならない熱心さで、鹿に似た獣から目を放さなかった。
サジータはまたしても足止めを食らって呆れたが、夜公演が終わるまではまだまだ何時間もあったので別にいいかとのんびり鼻息でため息をついた。
「新次郎、あたしはまたそこのベンチにに座ってるからさ、今度も見終わったら教えとくれ」
「はーい!」
振り返りもせず新次郎は背中で返事をした。

 しばらくベンチから動物と新次郎を眺めていたサジータだったが、さすがに30分も続けていると飽きてくる。
それにじっとしているだけなので喉も渇いてきた。
園の中ほどの位置だったので、売店は少し遠い。
ちらりと新次郎を見ると、まだまだ草食動物のエリアから脱出しそうになかった。
「新次郎、ちょっと飲み物買ってくるから、あんた、その檻の前から動くんじゃないよ」
はーい、という返事を確認し、サジータは肩をすくめて入り口付近の売店まで戻ることにした。
新次郎にはオレンジジュースでも買ってやっれば喜ぶだろうと、鼻歌を歌いながら。

 

 

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昴さんだったら喉カラカラでも我慢するかもしれない

 

 

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