わいるどらいふ 2

 

 

 和やかな昼の時間は短く、開演の準備のため、昴は新次郎が食べ終えたのを見守ると、再び舞台裏へと戻ってしまった。
最後まで楽屋に残っていたのはサニーサイドとサジータだ。
「サジータたんはいかないの?」
ほかのメンバーが準備に忙しくしている中。のんびりしているサジータが不思議だったのだろう、新次郎は椅子に深く腰掛けたまま動かないサジータのすそをひっぱった。
「あたしは今回出番がないからさ。暇なんだよね」
サジータはやれやれと頭の後ろで腕を組み、背中を伸ばしてあくびをする。
目を輝かせたのはサニーだ。
「ボクとしたことがサジータが非番だったのを忘れていたよ。丁度いいから大河君をちょっと見ててくれないかい」
「べつにいいよ」
サジータは実にあっさり了解した。
普通の子供ならめんどくさいだけかもしれないけれど、新次郎はそれほど手がかからないし、ちょっとかわいい。
なにより昴に恩を売れる。
「さじーたたん、あそんでくれるんですか?」
喜んだのは新次郎だ。
サニーサイドと一緒でも別に文句はいわない彼だったけれど、サニーはあまり一緒に遊んだりはしてくれない。
最初はサジータを怖がっていたのに、何かと遊びに付き合ってくれる彼女を今では大好きだった。

 

 サジータはとりあえず新次郎の手を引いて、シアターの裏口から外に出た。
本当はバウンサーに乗せてやりたかったのだが、昴に恩を売るという計画ならバイクは却下だ。
以前うっかりバイクの椅子から新次郎がおっこちたとき、サジータを責める昴の剣幕は恐ろしかった。
「ばいくのらないの? さじーたたん」
バイクが好きな新次郎は案の定そう聞いてくる。
「今日はタクシーだよ。その代わり、すっごくいいとこに連れてってやるからさ」
シアターの外は開場を待って列を作る人や、集まって談笑する人々で混み合っていた。
彼らを興味深そうに眺めながら、新次郎はサジータのあとを一生懸命ついていく。
サジータは背が高いので手をつなぐのも実は結構大変だ。
普段昴と乗っているリムジンタクシーではなく、気軽なイエローキャブに乗るのも初めてだった。
「さじーたたん、きいろいくるま、たのしいですね!」
新次郎には堅苦しいリムジンタクシーよりも、狭くて同乗者の近いイエローキャブのほうが楽しい。
サジータもどうやら昴のタクシーより好評なのを察し、そうだろうそうだろう、と、やたら満足そうだった。

 しかしタクシーはあっという間に目的地に到着した。
「ほら、ついたぞ!」
サジータは新次郎を抱き上げてタクシーを降りる。
「すばるたんち」
瞬きをした新次郎は毎日見ているホテルを見上げた。
「すばるたんちにいくの?」
「違う違う、あたしたちはこっち」
言いながらセントラルパークへ。
「しんじろーとすばるたんは、いつもこうえんにいきますよ」
どうやら別にめずらしくもない場所だと言いたいようだ。
「わかってるよ。でもさ、動物園には行ったことないだろ?」
「どーぶつえん? どーぶつえんにいくんですか!?」
途端に新次郎の目がキラキラ輝き、まん丸になってサジータを見つめた。
「そうさ、ちょっと長い散歩には丁度いいだろ」
「やったあー!」

 喜びのあまり、新次郎はサジータの腕の中でバンザイをしてしまった。
「どーぶつえんだいすきです! ぞうさんいるかなあー!」
素直に大喜びしている様子が嬉しくて、サジータも笑顔になった。
昴に恩を着せるのが第一目的だったけれど、だんだん新次郎を喜ばせることが目的に変わっていく。
「ライオンならたくさんいるさ。白いやつとかな」
「わーい! さじーたたん、おりる、しんじろーあるく!」
大興奮の新次郎を下ろし、再び手をつないで二人は動物園に向かって歩き始めた。

 

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私も動物園大好きだ!

 

 

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