ちびじろにっき 2

 

 すばるたんは、おはながすきですか?
しんじろーはすきだけど、いろんなしゅるいがあってよくわかりません。
おかーたんは、いろいろおしえてくれますが、おぼえきれないです。
でもさくらはしっています。
すばるたんは、さくらがすきなんですか?
ももいろで、すっごくきれいです。
しんじろうのおうちのおにわには、おっきなさくらのきがいっぽん、どかーんとうわっています。
はるになると、みんなでおはなみをするんです。
おうちでもするけれど、もっとたくさんうわっているこうえんにもいきます。

 

 新次郎は。カフェの椅子に座っていつものようにラクガキを交えて日記をかいていた。
前の日に昴が、一緒に桜を見たいと書いてくれていたので、
以前見た満開の桜を思い出しながら、一生懸命桃色のクレヨンで画用紙をピンクに染めていく。
「何をかいているの? タイガー」
カフェの掃除をしながら、プラムは新次郎の手元を覗き込んだ。
「えへへ、なんでしょうー」
満面の笑みで問われて、プラムは画用紙を手にとってしげしげと見つめる。
どこからどうみても、ピンク。
それ以外の色は使われていないし、ピンクが何かの形をなしているようにもみえなかった。
あえていうなら全体的には丸。
「うーん、むずかしいわね……」
プラムにしては珍しく、少々困ってしまっていた。
もしも間違って答えたら新次郎が悲しむと思ったのだ。
そこへ杏里がやってきて、プラムと一緒に紙を覗き込む。

 「桜を描いたの?」
「せーかいです! えへへ、さくら、いっぱいさくんですよ、はるになると、わーって!」
新次郎は両手を広げて、わーっと咲いた桜を表現した。
「すばるたんとみにいくんです!」
そう宣言し、プラムの手から画用紙を取り戻すと、せっせと桃色に染める作業に戻ったのだった。

 

 「よくわかったわね、あれがチェリーブロッサムだって」
仕事に戻ったプラムは、杏里にそっと耳打ちした。
「うん。日記の方に、さくらの事がかいてあったんだもん」
「ああ、あるほどね」
日記は日本語だったので、プラムには読めなかったのだ。
「でも、昴と桜を見に行くなんて、できるのかしら」
「このへんには咲いてないわよね」
こそこそと囁きあって、元気いっぱいに絵を描いている新次郎を見下ろす。
「ねえ、新次郎君、桜は日本でしか見られないかもよ?」
「みますよ! おはなみするんです! すばるたんがみたいっていってたもん!」
新次郎はとたんに頬を膨らませてしまった。
「昴さんは、桜が見たいっていっただけで、お花見をするって言ったわけじゃないんでしょ?」
「おはなみ、するんだもん。すばるたんと……」
たちまち新次郎の大きな目に涙が盛り上がってきた。
慌てたのは杏里だ。
「わ、わかったから泣かないで。お花見ね。うーん……、日本のお花見、調べてみるか……」

 実は、杏里も花見を良く知らなかった。
日系とはいえ、日本に行った事がないのだから仕方がない。
「サニーが持ってるんじゃない? ボンサイとかいうやつ」
「ああ、もっていらっしゃるかも!」
ポンと手を打つ。
「さにーたんのおうちにあるんですか?」
「あるかもしれないわよ、タイガー。あとで聞いてみようね」
「はい!」
新次郎は元気良く頷くと、満足行くまで桜色に染めた画用紙を、折れないように丁寧にもとの場所へと片付けたのだった。

 

 

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桜の盆栽ってほとんど見ませんよね。あと、杏里は日本語が読めない気もします。

 

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