遠くにありて 6

 

 遠く日本では、大神がまず最初にサニーサイドから話を聞いた。
「どう思う、ミスター大神。確かに今の彼は子供だし、可能なら会わせあげたいんだけどねえ」
「俺はかまわないのですが……、それが、その……」
大神はそのあとの言葉を濁すのだが、相手はまるで気にしない。
「おお、かまわない! いやあ、大河君が隊員達に愛されすぎるせいで、ボクは肩身が狭くってね。
ボクにも責任のある件だし、困っていたんだよ」
サニーは大げさに画面の前で身振り手振り。
「え、いや、その……、俺はいいんですけど姉が……」
「ありがとうありがとう。日程が決まったら教えてくれますか。では失礼!」
大神が何かを言うよりも早く、サニーは早々に通信を切断してしまった。

 

 「サニー……。何だ今のは……」
実はすぐそばで通信の様子を眺めていた昴は呆れた声を出す。
「だってさあ、断られそうだったじゃないか」
「そうですよ昴さん。とにかく今は大河さんをお母さんに会わせてあげる事を第一に考えなければ!」
同じく近くで通信を見学していたダイアナも激しく頷いていた。
「さすがダイアナ、そうだよねえ」
「そうですとも!」
思わぬタッグに昴は苦笑した。
彼らの言う事はもっともだし、昴自身、新次郎の為になんだってしてあげたいのだが、
自分以外の誰かが同じように彼の為に強引な手段を取っている場面を見ると、我が身を省みて少々恥ずかしくもある。
「どっちにしろ、返答が来ない事には結果はわからないな……」
昴は今は何も映っていない画面を見つめた。
上手くいけば、この画面で、新次郎を母親に合わせてやれる。

 新次郎の母という人物を、昴は間接的にしか知らなかった。
息子である新次郎が、子供になってしまう前や、そしてもちろん、今現在、
彼自身が話してくれる言葉の断片から想像するに、双葉という人物は、とても礼儀正しく日本的であり、
同時に大変愛情深い母親であるということだけしかわからない。
「大神中尉が上手く手を回してくれるといいんだが……」
さっきの様子だと、大神の方は全然乗り気ではなかった。
「平気さ、ミスター大神だって、自分に責任の一端があるとわかっているだろうから、それなりに気を回してくれるだろ」
「その責任とやらのほとんどは、お前にあるんだぞ、サニー」
昴はチラリと上司を見やったが、サニーは平気な顔だった。
そんな視線は向けられ馴れているのだ。
「とにかくおじさま、まだ大河さんには言わないで下さいね」
「うん。わかったよ。もし駄目になったらかわいそうだからね」
3人はそれぞれ、大神とその姉の双葉という人物に思いを馳せながら部屋を退出した。

 

 

 その頃日本では、帝国華撃団司令である大神一郎が、モニターの前で固まっていた。
「まいったなあ」
かわいい甥のためだから、なるべく手を尽くしてやりたいが、しかし。
「姉さんおっかないからなー……」
帝都から送られた薬を飲んだせいで、新次郎が子供に戻ってしまった、などと知ったらどうなるか。
絞め落とされるか、投げ飛ばされるか、あるいはもっと恐ろしい出来事が起こるかもしれない。
様々な状況を頭に思い浮かべる。
姉の息子への深い愛情はすでに身をもって知っていた。

 ずっと以前、新次郎がまだ士官学校に上がる前、加山と一緒に帰省していた大神は、
甥をちょっとだけ遊びに連れて行ってやるつもりで、姉に黙って新次郎を連れ出した。
久しぶりの帰省、旧友である加山も一緒というのもあって、つい自分が楽しみすぎて酔っ払ってしまい、
予定した時間を大幅に遅れ、帰宅したのは午前になってしまった。
あの時の地獄は思い出したくない。
大神も、友人である加山も、大変恐ろしい思いをしたのだった。
新次郎が双葉を止めてくれなければ、どんな事になっていたか。
結局、帰省している間の一週間、大神と加山は稽古と称する朝の鍛錬に強制的に参加させられ、
双葉に毎日投げ飛ばされるはめになった。
あれ以来、加山は双葉を大変恐れていて、自分からは絶対に近寄らない。

 普段から気風のいい姉だが、男勝りで武芸の実力も半端ではなく、大神にはまったく頭の上がらない相手なのだ。
過去の姉に対する恐怖体験を色々と思い出してしまった大神は、モニターの前で身震いしたが、
何度か深呼吸して心を落ち着かせると、意を決したように受話器を手に取った。

 

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双葉さんをとても恐れていたので。

 

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