病院の怪談 4

 

 週末であれば、大部屋に入院中の子供達にも家族の見舞いがあるのだろうが、平日の今日は家族の来訪はほとんどない。
昴はベッドの子供達を1人ずつ観察する。
どの子もそれほど大きな病ではなかった。
命に関わるような病気でないかわり、長引く病でなかなか退院できない子もいた。

 それから、一番奥、あいているベッド。
近づいてみたが、ダイアナが言っていたように、昴にも何の気配も感じる事はできなかった。
「そこ、おばけがでるよ」
さっきも昴に話しかけてきた黒髪の少年が、ベッドに座って本を読みながら顔もあげずにそういった。
「おばけ?」
「ああ。俺、隣だからわかるんだ。時々夜中に布団の中で何か動いてる」
途端に部屋の反対側から抗議の声。
「怖いこといわないでよ! ねられなくなっちゃう」
プチミントに盛んに甘えていた茶髪の少女が今にも泣きそうな声で訴えていた。
「ふん、別に怖くないのに」
少年はつまらなそうに呟いただけで、その間も一度も顔をあげなかった。

 昴はこの少年に興味が涌いた。
隣におばけがいるといい、けれどもまったく恐れた様子がない。
昴は、ほかの子供達を怖がらせないよう、彼のベッドに腰掛け、小さな声でコソコソと話しかけた。
「おばけって、どんなの?」
「さあ、さすがに動いてる布団の中は覗いて見たことないからわかんないよ」
「怖くないんだろ?」
「何もしてこないからな。おばけも寝てるんじゃないか」
「おばけが、寝るのかい?」
「そりゃ、おばけだって寝るさ。知らないのかよ」
昴は知らないというジャスチャーで肩をすくめる。
子供達の間では、もしかして「おばけ」は眠る物なのかもしれない。
けれども昴には「おばけ」イコール「ゴースト」が、眠ると言う話は聞いたことがなかった。
「今夜も来るかな」
「さあ」
実にあっさりした返答だった。
見かけも、実際の年齢も、間違いなく完全に子供なのに、彼の精神年齢ははかなり成熟している。
長く入院しているせいなのだろう。

 

 一方、プチミント、こと大河新次郎は、その日何度か病院内を点検してまわった。
使われていない病室なども調べたけれど、やはり何も見つからない。
変装した昴の姿があんまりかわいらしかったので、小児病棟には必要以上に何度も通った。
そんな風に院内を歩き回り、ようやく休憩室に入ったとき、持っていたキネマトロンが鳴った。

 

 「昴さん!」
「ああ、呼び出してごめん」
「いえ、いいんです。何かわかりましたか?」
キネマトロンで、昴は大河を中庭に呼び出していた。
人目につかない木陰のベンチに腰掛けて、お互いの成果を伝え合う。
とはいえ、大河も昴も、成果らしい成果は得られていなかったが。
唯一、それらしいネタは、少年の言っていた「おばけ」の話。
「でも、ゆうれいだったら、ダイアナさんにはきっとわかりますよね」
「人の魂というものは独特だからね。僕も何の痕跡も感じられなかった」
「うーん……」
大河は腕をくんで考え込んでしまった。
その格好に昴はつい、こっそりと笑ってしまう。
プチミントのときは、ベンチへの腰掛け方ひとつとっても普段の彼とまったく違っていたから。
演技としてやっているのだとしても、自然にそうなってしまうのだとしても、とても楽しい。
「とにかく、ぼくとダイアナさんで、今夜は交互に見回りしますから、何かわかるかもしれないですね」
「僕も部屋で気をつける。何かあったらすぐ連絡するよ」

 昴は大部屋に戻り、自分のベッドから、おばけが出ると噂のベッドを観察する。
大河にはああ言ったものの、昴のベッドと件のベッドの間には例の少年がいたので、気軽に何度も様子を見るわけには行かない。
今は出かけているのか少年がいなかったので、離れたベッドが良く見えた。
何の変哲もない、ただの空きベッド。
嫌な感じも、何の気配もない。
「今のうちに眠っておくか……」
昴は頭の下で腕を組み、仰向けになって目を瞑った。

 

 

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眠り方が子供っぽくな昴さん。

 

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