病院の怪談 2

 

 「それで、消えてしまった子を病院中探したんですけど、やっぱり見つからなくて……」
2日後、ダイアナはシアターで先日の病院での出来事をみなに語っていた。
「他の職員にその子の特徴を話しても、知っている人は誰もいなかったから、もしかしたらわたしの勘違いだったのかもと思うんですけど、どうしても気になるんです」
今思い出してみれば、ベッドで眠っていた子供から、ダイアナは何の気配も感じられなかった。
もしも普通の人間であれば、ダイアナには子供の生命力が感じられたはずだった。
「今までも何度か入院していないはずの子供が深夜に現れるという噂があって……。そこに今回の出来事が重なったせいで、夜勤を嫌がる職員が何名が退職してしまったんです」
自分の力が至らず職員が退職してしまったと、ダイアナは消沈しているようだった。
「あの子、どうしてあそこに……」
ダイアナには、少女と思われる子供の正体がまったくわからなかった。

 「なあなあーゆうれいだったのかー?」
リカは普通の人間なら大人でも怖がりそうな話題に、身を乗り出して参加していた。
「リカ、おばけみてみたい! 子供のおばけだったらともだちになれるかもしれないしな!」
逆にサジータは自分の体を抱くように腕を回し身震いしている。
「ダイアナにもわからないなんて、そりゃ相当だね。やだやだ、あたしゃ関わりたくないよ」
「でもさ、子供なんでしょ? 何か事件かもしれないし、調べた方がいいんじゃない?」
やさしいジェミニは怖さを耐えながら提案しているようだった。
大河は腕を組む。
「調べるって言っても、深夜の病院なんて入り込むのは大変だし、簡単に調べられないよね。しかも小児病棟なんて警備もしっかりしてるだろうし……」
そこへ、昴の声が続いた。
「別に難しくはないだろう」
「そうですね、大河さんや昴さんだったら、いくつか方法が考えられますけど」
「えっ?! ぼく?!」
自らを指差し眼を丸くする大河に、昴は微笑む。
「小児科病棟の患者の年齢制限は13歳までのはずだ。君なら問題なく入院できるだろ」
「だ、大問題じゃないですか! ぼく20歳ですよ!」
必死に訴える大河を尻目に、他のメンバーは誰もフォローしなかった。
ただ昴の言葉に頷くのみ。

 けれど当の本人がなんとしても頷かない。
「だめですだめです! ぜーったいにだめ!」
「なんだーしんじろーおばけが怖いのかー?」
「ちっ、ちがうよ!」
「リカが入院してもいいぞ!」
張り切って椅子から飛び降りたリカにむけて、昴は皿の上のドーナツを差し出した。
「入院したら、毎日病院食しか食べられないけれど、それでもいい?」
昴から受け取ったドーナツを、一口で半分ほど頬張ったリカが、口をもぐもぐさせながら聞く。
「病院食ってどんなだ?」
「病気にもよるだろうけれど、普通、量が少なくて、薄味のものになるだろうね」
ダイアナも頷いた。
「子供達の健康のバランスを考えたメニューですけれど、確かに少なめで薄味ですね」
「えー、じゃ、リカいかない」
あっさりと前言を撤回し、リカは頬を膨らませたまま椅子に座りなおしてしまう。

 「入院して潜入するのは僕がやろう」
昴は軽く片手をあげ、静かに宣言した。
「そうだねえ、あんたなら子供に見えるだろうし、妥当なとこだろうね」
サジータも頷いた。
「昴さん、ひとりだけで調べるの?」
ジェミニの心配そうな声に、大河は首をふった。
「ダイアナさん、職員に欠員が出たって言ったよね」
「はい。わたしもその提案をしようかと」
「ぼくも看護士として潜入して、病院を調べてみるよ」
大河の提案に、けれどダイアナは首を振った。
「あの、大河さん、欠員が出ているのは、看護婦、だけなんです」
「えっ?!」
「ですから、病院に来てくださるなら、看護婦として潜入していただかないと……」
「プチミントの出番だね!」
ジェミニの嬉しそうな宣言に大河は硬直してしまったが、みんなは黙ったまま深く頷くばかりだった。

 

 

TOP 漫画TOP  前へ 次へ

ダイアナさんは最初から狙っていたのではないか。

 

inserted by FC2 system