恋人の時間 

 

 ボク達は、そのあと普通に、のんびりダブルデートをした。
ボクのお相手は、レディーファーストが徹底していたし、最初はつまんないと思っていたお話も、良く聞けばちょっと面白いかも、って思えてきた。
ボクも彼と同じくらい、ラリーの話とかサムライの話をしちゃったしね。
きっと彼には興味ない話題だったと思うけど、それでもちゃんと聞いてくれたんだ。

 夕方にはダブルデートも終わり。
「ねえねえジェミニ、このあとみんなでご飯食べに行く?」
新次郎はあいかわらずニコニコ。
うん、でも……。
「大河、ちょっと」
「え? わっ、ちょ、わひゃあ〜〜」
すかさず昴さんが新次郎の腕をひっぱってく。
さすが、昴さん。
ちゃんとボクの気持ちがわかっているんだ。

 初めてボクと、ボクの彼氏候補の人はふたりっきりになった。
二人だけになると、やっぱりわかる。
四人でデートしてるときみたいにわくわくしないんだ。
これから時間をかけて仲良く、って言われたらそうなのかもしれないけど、きっとお友達になれてもそれ以上には思えない。
「ジェミニさん、今日は俺、とても楽しかったよ」
彼はキラキラの眼でボクを見てるけど、言わなきゃ。
「俺とまたデートしてくれますか? できれば今度は二人で……」
まっすぐな視線が申し訳なくて、ボクもちょっとだけ笑う。
「俺、体を鍛えるから。今度ジェミニさんが絡まれたら、俺だけで助けるんだ」
やっぱり、すごく優しくていい人だ。

 「ボクも今日は楽しかったよ」
そういうと、すっごく嬉しそうな顔。
「でもね……」
言うのは辛いよ。
でも言わないと。
「ボク、やっぱりあなたとは恋人になれない」
「えっ……」
「ごめんなさい。いつか君にも、素敵な人が現れるって信じてるよ」
「ちょっと待って!」
彼は急に真剣な顔になって、必死に訴えてくる。
「俺、今日はいいとこ一個もなかったけど、でも、絶対に強くなって見せるし、次は遅刻もしないしっ!」
「ううん」
ボクは、彼のぎゅっと握られた拳を、その上からそーっと握った。

 「君は、今日、すごくかっこよかった。勇敢だったし、感激したよ!」
「だったら……」
「でもね、ボク、今日デートしてわかったんだ」
言わないと卑怯だよね。
「ボク、他に好きな人がいるみたいだから」
「他に好きな人が……?」
ボクは頷いた。
「ごめんなさい。デートしてよくわかったんだ」

 彼の目からみるみる涙が。
鼻をすすって、ぐいっと拭く。
「そうかあ……。好きって気持ちは、簡単に変えられないもんな」
「うん」
ボクもなんだか泣けてきた。
だって、ボクだって失恋したみたいなものだよ。
やっぱり好きな人がいて、その人には恋人がいるんだもん。
二人同時失恋だよこれ。

 

 彼は最後までいい人だった。
ずっと友達でいてくれるよねって、握手してお別れ。
手を振って見送って、振り返ったら、昴さんと新次郎が戻ってくるところだった。
「おーい!」
声をかけて駆け寄ると、やっぱりわかる。

 ボク、今も新次郎が好きなんだ!

 

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友達でいようねってお断りの常套文句だ。

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