恋人の時間 

 

 ボクの初めてのデート。
といってもダブルデートだけどね。
ついでにいうと、相手の人は出会ったばっかりで恋人じゃない。
友達からって言ったけど、まだ友達でもない感じ。
だって顔だけしかしらないもん。
そう思ってたら急に不安になってきた。
なんでボク、そんな人と友達になろうと思ったんだっけ?!
あ、そうだ、好きって言ってくれたから。
告白されたからだ。

 待ち合わせ場所には朝の10時に集合。
ラリーで行くつもりだったんだけど、昴さんに止められた。
だから今日はスカートだよ。
新次郎とデートできたらいつか着てみたいなと思ってた、ブルーのワンピース。
今日この服を見たら、新次郎、誉めてくれるかなあ。
……。
あ、だめだ……。
新次郎に誉められたいって、ボク思ってる。
ボクを好きだって言ってくれた、あの人じゃなくて。
ううん、きっと、あの人に誉められても嬉しいよ!
嬉しい! 嬉しい!
ボクは、勢い良く歩き始めた。
手も足も、いっぱいふって。

 「あれ? ジェミニ?」
もうちょっとで待ち合わせ場所に着くってところで、ボクは声をかけられた。
振り向くと、びっくりした顔の新次郎。
「うわー、ジェミニ、すっごくかわいいよ!」
「えっ、ホント?!」
「うん! すっごく似合ってる!」
似合ってる、……似合ってるって……。
心臓がドキドキして、顔が熱くなってきたよ。
新次郎はニコニコしながらボクの隣を歩いてる。
「ぼくなんか、いつもと同じ格好で来ちゃったよ。おしゃれしてくればよかったね」
「そうだよ新次郎、ボク、おしゃれした新次郎もみたいよ」
新次郎はいつもと同じモギリの格好だったよ。
でもそこが新次郎の新次郎っぽいところだもんね。
新次郎がいつも通りでいてくれた方が、自然な感じで落ち着ける。

 待ち合わせ場所のベンチに二人で腰掛けて、いっぱいおしゃべりした。
まだ時間には早かったから。
昴さんが来たのは待ち合わせ時間のピッタリ五分前。
「二人とも早いね」
「えへへ、おはようございます」
新次郎はすかさず立ち上がって、昴さんを自分のいた場所に座らせた。
ベンチは二人がけだったからさ。
やさしいな、新次郎……。
昴さんもボクの服を誉めてくれたよ。
「ブルーがとても似合っているね。ジェミニにブルーは予想していなかった。シアターにも着てくると良いのに」
「ですよね! あ、でもラリーに乗るからスカートはダメなのかな」
昴さんと新次郎にいっぺんに誉められると嬉しいけど恥ずかしいよ。
ところで、昴さんもいつもの服だった。
この二人は普段こんな風にデートをしているんだろうな。
特別におしゃれしたり、気取った格好をしない、自然なデート。
二人にとっても合ってる。

 ところでボクのお相手は、待ち合わせ時間になってもこなかった。
待ち合わせ時間に集まるボク達がかわってるのかな。
その人が来たのは、昴さんと逆で、集合時間のピッタリ五分後。
「やあ、お待たせ! 役者さんとかって時間にルーズなのかと思ってた!」
にこーっと笑って、真っ白い歯がピカっと光った。
全然悪びれないから、ボクもちょっと笑っちゃった。
昴さんも新次郎も怒らないけど、こういうときってボク、怒った方がいいのかなあ。
なんて悩んでいるうちに昴さんが立ち上がる。
「では、行こうか」
新次郎が手を伸ばして、昴さんはその手を握る。
ものすごく自然だった。
それを見て、ボクのお会いても手を伸ばしてくれた。
で、でも、手を繋ぐのはまだちょっと……!
ボク、つい気が付かないふりしちゃったんだ。

 前を歩く新次郎と昴さんの背中を見つめながら、ボクとボクのお相手はなんとなく気まずい空気のまま歩き始める。
き、きっと、これから、楽しくなってくるよ!
だって、デートなんだから!

 

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モギリ服は普段着じゃなくて仕事着だよね……。新次郎……。

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