恋人の時間 4
あの男の人は、次の朝もやっぱりセントラルパークにいた。
ボクたちをみつけて、すごい勢いで走ってくる。
ボクはドキドキしてたけど、昨日みたいにびっくりはしなかった。
昴さんも新次郎もその場所にいてくれたからかな、二人がボクを見ててくれてると安心できるんだ。
「あのっ、昨日の、俺が言ったこと、考えてくれましたか?!」
「ハッ……、ハイ! ジェミニはお友達からお付き合いしたいと考えているであります!」
きゃー言っちゃった! 友達、「から」だもんね、その先とかもあるかもしれないんだよ!
恋人じゃなくてもすごいよ。ボクそんなの初めてだ。
「友達から、かぁ……」
ちょっと考えてから、その人は手を差し出してくる。
「……わかった! じゃあ握手。友達になったんだから!」
「あ、うん」
そーっと手を出したら思いっきり掴まれた。
そのまま引き寄せられて背中をぽんぽん。
明るい人、ちょっとサニーさんみたい。
「じゃあさっそくデートしよう!」
「でーとぉ?!」
とっ友達なのに!?
「デートしないと友情が深まらないだろ」
「で、でも、友達だったらデートっていわないんじゃないかな」
ボクは困ってるし、ボクが困ってるのをみて彼も困った顔になってくる。
その様子を見かねてか、昴さんが軽く手を上げた。
「それならダブルデートにしよう。相手の事もよくわかるだろうし」
「ダブルデート?!」
ボクだけじゃなくて、新次郎もへんてこな声をあげる。
びっくりしたんだ。
うーん、ダブルデートか……。
それならいいかなあ……。
彼を見ると、ちょっと不満そうだったけど、それ以外にボクが了承しない雰囲気だったので、しぶしぶ頷いてくれた。
デートは明日、日曜日の朝。
紐育の街をお散歩して、それからどこかで休憩しようって事になった。
朝のゴタゴタした雰囲気は、シアターについてからも続いちゃったんだけど、昴さんはずっとボクのことを心配してくれてるみたいだった。
ボクが稽古に使う小道具を取りに道具部屋に行った時、気がついたら昴さんが後にいたんだ。
「ジェミニ、デートをしたくないなら、明日の朝僕達だけで行って彼に断ってくるけれど?」
「えっ?」
行きたくないなんて、思ってないよ。 た……多分……。
「あの場を収める為にダブルデートを提案したけれど、行きたくないのなら……」
「ううん! ボク行くよ、デートしてみたい。あの人、ボクを好きだって言ってくれたんだし!」
「そうか。でも、落ち着いてよく考えるんだよ」
昨日も昴さんはそう言ったよね。
良く考えないと駄目なのかな、恋って。
新次郎を好きになった時、あれこれ悩んでいるうちに、気がついたら失恋してたから、今度はもっと積極的になろうと思ってるんだけど、違うのかなあ。
昴さんは、どうやって新次郎と両想いを確かめ合ったんだろう。
やっぱりちょっと気になる。
昨日は教えてもらえなかったもんね。
「ジェミニ、焦る事はないんだ」
「でも昴さん、ボクが前に好きになった人は、ボクがもたもたしてるうちに他の人と付き合っちゃったんだ」
そう言うと、昴さんは一瞬驚いた顔をしたように見えた。
驚いた昴さんはめったに見たことないから、ボクの気のせいかもしれない。
「……今でもその人が好きなんじゃないのかい?」
「……うん……。……ううん……。好きだけど、無理だもん。今までなんとなく諦められなかったけど、ボクに恋人が出来たら……」
「ジェミニ……」
昴さんはやっぱり困ってるみたいだった。
昴さんでも困ることってあるんだな。
最初に好きになった人を諦めるなって言われたらどうしようと思ってたけど、そんな事は言われなかった。
「とにかく、明日、きちんと彼の人となりをみてみよう。……今朝は少し気になった」
気になること? あったかなそんなの。
「僕の考えすぎかもしれないし、おせっかいが過ぎる気もする。でもジェミニ、君はもう以前の君とは違うのだから、気をつけるんだよ」
前のボクと違う?
ボクは何もかわってないと思うんだけど、何が違っているんだろう。
前と違ってたら何を気をつけるのかな。
わかんなくて考えているうちに、昴さんはボクが持っていくはずだった小道具を抱えてた。
「そろそろ戻ろう。あんまり遅いとサジータに文句を言われるぞ」
「うん」
本当はもっと色々聞きたかったんだけど、仕事中だもんね。
またあとでゆっくりお話してみよう……。