恋人の時間 

 

 結局、そのあとすぐに仕事に行く時間になっちゃったので、ボクに告白してくれた人とはその場でお別れして、ボクは新次郎と昴さんと一緒にシアターに向かった。

 足元がふわふわしているボクを、昴さんと新次郎がラリーに乗せてくれたんだけど、
今でも夢をみてるみたい。
あの人、またボクの前に来てくれるのかな。

 新次郎のことが好きだけど、片想いはやっぱりつらいよ。
しかも、もうお相手がいるって事はさ、ずーっと片想い決定だもんね。
あの男の人、素敵だったな、強いのかな、サムライを目指してますって言っても励ましてくれるかなあ。
「ジェミニ」
俺もサムライが好きだ! なんて言ってくれたり……。
「ジェミニ?」
「……昴さん、ぼく、サニーさんに呼ばれているので先にいきます」
「わかった。ジェミニの事はまかせろ」
サムライも好きだが君はもっと……、とか言ってくれたりなんかして!
「ジェミニ!」
「は、はい!」
「もうとっくにシアターに着いているよ」
わ、わあああ、昴さんが笑ってる!
あ、あれ? 新次郎がいないけど……。
「新次郎なら、君にいくら話しかけても反応がないので先に行った」
「えええー!? ボク、そんなにぼーっとしてたのかな」
「朝の男の事を考えていたのなら、ゆっくり落ち着いてから考え直すといい」
「うん……」

 ゆっくり、落ち着いて、かあ。
むずかしいよ。
ボクは昴さんと一緒に楽屋に向かった。
まだ誰も来てない。
朝早かったからね。
そういえば、昴さんと新次郎は……。
「あの、昴さん」
「ん? なに?」
今日の台本をさっそくチェックしていた昴さんは振り向いた。
「昴さんは新次郎に告白されたの?」
思い切って聞くと、昴さんはちょっと困った顔をした。
「聞きたいのかい?」
「……」
聞きたいから聞いたはずなのに、ちょっと聞きたくない。
だって、新次郎が昴さんに告白している姿を想像するのは苦しいもの。
ボクが黙っている間に、昴さんは全部お見通しだった。
「ジェミニ、恋愛は人それぞれだ。けれど求める相手を間違ってはいけない」
「うん……」
「今朝の男を君が本当に好きなら止めないけれど、そうじゃないだろう?」
「ま、まだつきあうって決めていないもん」
「でも、そうしてみようと思っている」
うっ!
「だって、だって、ボクの好きな人にはもう恋人がいるから!」
つい大きな声になっちゃう。
そんなボクを昴さんは優しい目でみてくれるんだ。
「君はいい子だから、焦らなくてもきっと素晴らしいパートナーが見つかる。でもそうだな、――今朝の男と、まず友人として会ってみてはどうだい? 悪い人間じゃなさそうだったし」
「友達?」
「大抵の恋愛はそこから始まる」

 そっか、友達かあ。
そうだよね、いきなり恋人じゃおかしいもん。
お友達としてお付き合いして、それで新次郎より強くてかっこよくてかわいかったら、そしたら……。
「おう、おはよう、はやいねあんたら」
あの人も馬を飼うといいかもしれない。
「おっはよー! すばる、じぇみにー!」
案外もう馬を飼ってるかも!
「おはようございます、みなさん。あら、ジェミニさんはどうなさったんですか?」
「わっかんねーさっきから、ひとりでぶつぶついってんだぞ」
「そっとしておいてやれ、リカ」
そしたら二人で遠乗りに……。
馬同士もこいびとになっちゃったりして、子馬が楽しみだね……、そろそろ俺達も……、なんちてなんちてーーー!!!

 はっ!!

 

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新次郎は色んな基準が実は結構高いね。

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