楽園の華 3

 

 「スカート、もっと長くできないの?」
「だめですよ、校則でこの長さ、って、決まっているんですから」
杏里はすげなく言って、自分の作品に上から下まで真剣なまなざしを向ける。
その正面にはプチミントの大河が、女子高生の格好をして所在なさげに立ち尽くしていた。
恥らう様子も女の子のように見える。
制服は白いブラウスに茶のブレザー、黒い紐のタイ。
スカートはチェック柄で膝丈ほどの長さ。
隠しようのない男の足は、黒いタイツを履く事でごまかしている。
「さあみなさんに見せてきてください。変な所があったら戻ってきてください」
「えっ、まだぬいじゃダメなの?!」
「あたりまえでしょ! ちゃんとチェックしないまま入学して、学校でバレてもいいんですか?」
杏里は取り付く島なくそういうと、歩みの遅いプチミントの背中を押して部屋から追い出してしまった。
「次は昴さんの制服をチェックするんだから、ちゃんと呼んできてくださいね」
「わかったよ……」

 とぼとぼ廊下を歩き、みんなが待っている楽屋のドアをそーっとあけてみる。
「おっ、来たね!」
すかさず声を出したのはサジータだ。
顔だけ出して中の様子を伺ったのだが、みんな興味津々の様子でこちらを凝視している。
大河は無言のまま、そっと扉を閉じた。
しばしの沈黙。
「おいこら新次郎!」
追いかけてきたのもサジータだった。
「みんなに見せなくても大丈夫ですよー!」
「あたしたちは見たいんだよ!」
廊下をしばし逃げ回ったものの、着慣れない短いスカートでは全力で走ることもできずすぐにつかまってしまった。
「ほら観念しな」
「うう……」
再び戻った楽屋では、やはりみんなが大注目だ。

 「あの、変なところはないか、チェックしてもらえって杏里君が……」
「変なところなんてないですよ大河さん!」
目を輝かせてうっとり感想を述べたののはダイアナだ。
「とっても素敵です!」
「そうだよ、本当にかわいいよ新次郎」
ジェミニも立ち上がり、プチミントの手を握った。
「いいなあ、ボクもこういう服が似合うようになりたいよ……」
呟きながらプチミントを前から後ろから観察し続ける。
リカはお皿の上のドーナツを食べながら、いしししし、と笑った。
「プチミント、かわいいぞ! おねえさんみたい」
最後に昴が苦笑しながら近づく。
「本当に女子高生に見える。でもあまり喋らないほうがいいな」
「はあい……」
「少なくとも外見だけならバレないだろう。僕もサポートするけれど、気をつけろ」
言っている言葉は手厳しかったが、その笑顔は昴が満足しているときのものだった。
恋人として交際している大河には、昴の笑顔が作り物ではないとわかったので、ようやく自分の女装に動揺していた気持ちが落ち着いてくる。
昴は大河が杏里の伝言を伝えないうちに、僕も制服を合わせてくると言い残し、自分から楽屋を出て行ってしまった。

 楽屋のソファに大人しく座り、ダイアナが淹れてくれた紅茶を飲む。
「今までは舞台で女らしくしてれば済んだけど、今度は日常でも女らしくしなきゃならないんだから、練習しとけ」
というサジータの提案だ。
しかし誰が注意するまでもなく、大河は十分に女性らしいしぐさを問題なくマスターしていた。
チョコンと椅子に座り、まつげを伏せて静かに紅茶を飲む。
その不安げな所作が見ているみんなの保護欲をかきたてた。
「そうだ大河さん、これから学校に入学する日まで、毎日その格好でシアターにいらしたら?」
「ええっ?!」
思わぬ言葉につい男らしい声が出る。
「だめだよ新次郎、驚いたときも女の子みたいにしなきゃ」
「そうだぞ! しんじろーだってばれる」

 プチミントがみんなの顔を見渡すと、全員が目をきらきらさせて自分を見ていた。
どう考えても面白がって提案しているとしか思えない。
でも練習したほうが良いのは事実のようだった。
クレオパトラを演じたときも、日常生活でプチミントの格好をしていたけれど、確かにあれは無駄ではなかった。
大河は立ち上がりかけていた尻を落とし、深々とため息をついたのだった。

 

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ゲーム本編でのプチミントの走り方は最高だった。

 

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