四章 ―誘拐1―

 「すばるたん、また、さじーたたんに、おこられちゃいますよ」
昨日に引き続き、時間ぎりぎりまで自分にかまっている昴を見て、
新次郎は心配になったのだ。
昨日舞台が終わった後、サジータが昴に、
「新次郎はしっかりしてるんだから、ほっといたって大丈夫だよ!あんなギリギリに来られちゃ、落ち着かないったらないよ!」
と、怒っていたのを目撃したのだ。
自分のせいで、大好きな人が叱られるのは見たくない。
「平気だよ、ちゃんと間に合うように行動しているんだから。サジータの方こそ放っておいて大丈夫」
やさしく話しかけて頭をなでる。細いしなやかな髪がふわふわと心地よい。
本当の所、昨日はあまり大丈夫ではなかったのだが。

 「誰を放っておいても大丈夫だって?」
ツカツカと歩みよるサジータを見て、新次郎は思わず昴に抱きついてしまった。
「君だよサジータ。話、聞いてたんじゃないのか?」
ぬけぬけと言い放ち、
「新次郎が怖がるから、あまり物騒な顔はしないでくれ」
と、逆にたしなめた。
 今日もなかなか昴が楽屋にやってこないから、わざわざ迎えに来てみればこの始末。

 「新次郎、じゃあ行って来るから、いい子で待ってるんだぞ」
「いってらっしゃい、すばるたん」
サジータを無視して話を進行し、自分だけさっさと楽屋に向かった。
「ちょっと!まてコラ!迎えにきたあたしを置いていくな!」

 遠ざかっていく昴に追いすがり、ようやく人心地ついて話しかける。
「それにしても昴、あんた本当に新次郎の母親みたいに見えるよ」
冗談で言ったつもりだったのに、声に出したとたん、実際に昴が彼の母親として申し分のない働きをしている事に気が付いた。
 新次郎はなかなかサジータになつかない。一度ぶん殴ってしまったのが大きなネックになっているようだ。
少し悔しくなって、今度こそ昴をからかってやろうと、とっておきの発言をしてみた。
「いっそ本当に子供を作ればいいんだよ。でっかい方の新次郎とさ、そうすりゃアレと似たようなのが出来るんじゃないのかい?」
サジータも昴の性別を知らなかったが、ここ数日の新次郎に対する振る舞いは、父親ではなく、母親の物だった。
だから言ってみたのだが。

 それを聞いた昴はハッとサジータを振り仰ぎ、
「大河と…子供を…?」
そう言って、眉根を寄せて真剣な表情をした。
昴が厳しい表情をしているのを見て、サジータは慌てた。
昴はいつでも凶器を持ち歩いている。重く鋭利な鉄扇だ。これからひと仕事あるという時に対峙したい相手ではない。
そんなサジータの動揺を知ってか知らずか、昴は髪をかき上げ微笑んだ、
「いや…面白いよ。…うん。興味深い。たしかに似たのが出来るかもしれないな…」
 そう呟きながら楽屋へと入って行った。
サジータは半ば唖然として、立ち止まってしまった。
結果、ギリギリ楽屋入りの昴より、迎えに行ったサジータの方が遅れて楽屋入りとなったのであった。

 

 

 

 

本当は誘拐を実行する話は一話にしようと思っていましたが、
ここだけのんびりしているので分けてみました。
昴さんとサジータのコンビはとても好き。遠慮なく突っ込みあえるし。
次回は犯人がちびじろーに接触。さようならさようなら。

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似たのが出来ますよきっと

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