三章 ―全容―

 下見は重要だ。
だが、時間がないのもまた事実。
上にせっつかれていると言う事もあるが、急に現れたあの男の子が、
いつまた突然いなくなるかわからない。
タイガーが戻ってきてもやっかいだ。
そういうわけで、計画実行はあさってに決定した。

 九条がレビューに出演している間、子供を託児所に預けてくれれば事は簡単だ。いくらでも隙がある。
実際そうなる可能性は高いだろうと思われた。

 リトルリップシアターの初日のチケットは5人分、翌日分とあわせて10枚入手した。
九条が子供をシアターに連れて行った場合にはこちらを使う。
初日は下見。翌日は決行日だ。

 決行前日、意外にも九条は託児所に子供を預けずに、劇場に同伴して出勤して来た。
面倒な事態だ。
楽屋にでも引き込まれた場合、多少荒事が起きるかも知れない。

 だが初日見た限りでは、男の子はカフェや売店で過ごしていた。
あやしまれない程度にレストルームに交代で通い、動向をチェックする。
休憩時間はカウンター奥に入り込んでしまっているようだ。
この時間もウロウロしていてくれれば、人が雑多に入り乱れて攫い易かったのに。

 とは言えある程度のタイムテーブルと必要な物、人員の配置は決定した。
劇場内に実際に入るのは5名。自分と、部下4名だ。
うち一人は常に着席し、舞台でなにか緊急事態が発生したら連絡を寄越す事になっている。

 入場時、子供はカフェのテーブルについている。客はまばらだが0ではない。
できれば同じテーブルに着席し、飲み物にフロセミドを投入する。
利尿剤だが、ちいさな子供なら効果は覿面だ。
 レストルームで常に待機するのは自分を含め二人。子供が来たら残りの二人にただちに連絡をする手はずになっている。

 子供を拉致する為には、大人しくさせる事が大前提だ。
いくつか薬品を用意したが、最終的にはメラトニンリキッドとジエチルエーテルに絞った。
メラトニンは効果が緩やかで、人体にあまり害がない。匂いも刺激も少なめだ。
だが意識を失うまでに少々時間がかかる。スプレーならよかったが、リキッドでは難ありだ。
売り物だから、こちらを使ってやりたかったのだが。
 今回は一秒でも早く静かになって欲しいので、エーテルを使用することになるだろう。
子供には多少危険だが、吸引させれば速やかに昏倒する。なかなか目が覚めないのも便利だ。
筋弛緩作用が強すぎてぐったりしているように見えるだろうが、まあ熟睡している事にすればいい。

 そこまでうまく行けばあとは簡単だ。
着替えさせて別人に仕立て上げ、退場するだけ。
部下の4人は舞台が終わってから引き上げる。

 子供の買取先は上が見つけて来た。
2件打診して、両方ともぜひ買いたいと返答を寄こした。
 一件は日本の旧家で跡取りが出来ない夫婦。九条の血筋だと言ったら飛び付いてきた。
実際は九条昴の実子かどうか未だに不明だったが、売ってしまえば知ったことじゃない。
 もう一件はモナコの貴族で変態だ。少年から青年まで、若い男を侍らして楽しんでいるゲイ。
以前はわけありの美少年などを本人同意の下で購入していたが、それだけじゃ物足りなくなったらしい。

 

 

 

 

明日からは九条昴ではなく、このどちらかが子供の所有者になるだろう。

 

 

ドナドナが聞こえます。
前置きが長くてすいません。大好きなんです。前置きが。
次回からようやく序章へ。ぜーはー。
※そしてまた解説。メラトニンはクロロフォルムの一種です。なかなか効きません。というか嗅がせたぐらいじゃ寝ないんじゃないか。
 リキッドとスプレーの違いはそのまんまです。垂らすかシューっとやるか。
※エーテルは気化させて使う麻酔ですが、危険なので今は使われていません。

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