サジータと新次郎 8

 

 新次郎と何をして遊んでやろうかと考えながら、あたしが腕組みをしていると、突然だれかが事務所のドアをガンガン叩いた。
新次郎が椅子に座ったまま飛び上がり、すかさずあたしの足に抱きつく。
いつも昴にしてるのと同じ事をあたしに!
それからおっかなびっくりドアの方を覗き込んで、チラっとあたしを見上げた。
あははっ、怖がりだね。
よーし、まかしときな新次郎、あたしの方が昴より頼りになるってわからせてやるよ。
それにしてもなんだい、もう事務所は閉めたってのに。
ハーレムは昔に比べりゃ良くなったけど、今も治安がいいとはお世辞にも言えない。
不用意にドアを開けたりは出来ないんだ。
だからあたしは、足に抱きついた新次郎に、平気だぞと言う意味をこめてニヤッと笑ってやってから、ドアに向かっては厳しい声をかける。

 「誰だい!? 依頼なら明日出なおしな!」
「姉さん、俺だ!」
なんだ、カルロスの声だ。
「ちょっと待ってな」
心配そうにあたしを見上げていた新次郎だけど、どうやらあたしの知り合いが来たのだと察して、さっきよりは怯えてない。
「あたしの友達だよ」
「おともだちですか」
それを聞いて安心したのか、新次郎が足から離れてくれたので、玄関のドアをあけてやる。

 「よ、カルロス、なんだいこんな時間に」
「姉さん、今すぐ集会場に来てくれ!」
前置きも何もなく、カルロスが叫ぶ。
「うちの連中がチンピラどもと大喧嘩してんだよ!」
「なんだって?! それじゃ今すぐ……」
あ、しまった。
「どうした姉さん、早く行こうぜ!」
「いやーそれがちょっと……」
「ぐずぐずしてたら警察がきちまうよ!」
あたしがちらっと事務所を振り返ると、カルロスも釣られて部屋の中を見た。
「!」
「ひゃっ」
新次郎が慌てて机の影に頭をひっこめる。
「姉さん!」
「あいつがいるからさあ……」
「隠し子なんていつのまに!」
ガツン、と、部屋の中に鈍い音。
反論する前にカルロスの頭をぶんなぐった。
「あたしの子じゃない! 預かってるんだよ! どう見ても東洋人だろうが!」
「あ、ああ、ほんとだ」
カルロスは殴られた頭をさすりながら、もう一度新次郎を見た。
その新次郎は机から頭を半分だけ出してこっちを伺ってる。

 「おいで新次郎」
「……」
来ない……。
顔がひきつりそうになるのを堪えながら、もう一回、あたしはやさしーく新次郎を呼んだ。
「大丈夫だから、おいでー新次郎ー」
そしたら新次郎は机の影からそっと出て来て、出てきたと思ったらタッタカとこちらに駆け寄って……。
「なんでそっちに行くんだい!」
カルロスの足にしがみついた。
「だって、さじーたたん、このひとぶったもん」
「ぶたれるような事を言ったんだよ!」
「姉さん!」
あ、忘れてた。
「わるいねカルロス。こいつを預かってるからさあ、揉め事はちょっと」
「でも姉さんが出ていかなきゃ収まらないぜ」
「そう言われてもなー」

 あたしが必要だって言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、喧嘩の現場に新次郎を連れてったらそれこそ昴に何されるかわかったもんじゃない。
「姉さん!」
「あーわかったわかったよ! 今考えてるんだ!」
「俺がこのガキを見てるから!」
「ガッ……」
ガキ。
なんという恐れ知らず。
あたしも心の中では何度もそう呼んでるけどさ。
でもまあ、案そのものは悪くないね。
「俺がこいつをおんぶして行くぜ!」
「は?」
「な、お前、男なら喧嘩の一つや二つどうって事ないだろう?」
新次郎は真面目な顔でカルロスを見ている。
「俺を助けてくれるよな!」
「しんじろーは、おとこですから、けんかぐらいへいきです!」
あー言っちゃったよ。
「よーし、それじゃ俺におぶされ」
「はい!」

 新次郎を背負ったカルロスが、準備は整ったとばかりにあたしの前に立っている。
もう自信満々。
新次郎も目がキラキラしちゃって、こっちはこっちで行く気満々。
「行くぜ姉さん!」
「いきましょうさじーたたん!」
「あーもーわかったよ!」
ちゃっちゃと行って、ちゃっちゃと帰ってくればなんとかなるだろ。

 

 

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新次郎は案外喧嘩っぱやそうかも?

 

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