サジータと新次郎 2

 

 新次郎は昼飯を食べた後、必ず昼寝する。
あたしはちゃーんと知ってるんだ。
だからちょっと練習を抜け出してきた。
なあに、あたしはあたしのパートを終わらせたんだから、当分は平気さ。
でも関門がないわけじゃないんだよ。

 「あら、サジータ、どうかした?」
ドアを開けた途端、ラチェットの難しい顔。
さっそく関門その1が現れたね。
「ちょっとサニーに用があってさ。あいついるかい」
「いるわ。でも大河君が眠っているから、後じゃ駄目なの?」

 ラチェットは新次郎をかわいがっていないように見えて、実は過剰にかわいがってると思うね。
昴並に。
いつもサニーサイドにあれこれ指示を飛ばしてる。
新次郎が子供になっちまう前から甘やかしてたけど、子供になってからは、新次郎の事ばっかりで指示が飛んでる。
昼寝の事もそのひとつさ。
幼い子供には昼寝が必要。
健康な心身の生育の為に、睡眠は最も重要な要因よ、とかなんとか言って。
だから、新次郎の昼寝の時間はサニーも書類仕事しかしない。
極力静かにしてろ。起こしたら許さないって事だね。

 「すぐに済むからさ。他の時間だと手が空きそうにないんだよ」
「そう……」
不満そうな顔だけれど、駄目だとは言われなかった。
「ノックはしないでね」
「わかった」
やれやれ、ここの人間はどうしてこうなっちゃったんだろうね。

 あたしは肩をすくめて扉の前に歩み寄った。
音を立てないように、そーっとあける。
サニーはすぐあたしに気付いた。
でも声をかけてこないまま、また書類に視線を落とす。
開けた時と同じように、慎重に扉を閉めて、あたしはソファの上を見た。

 新次郎は、ソファの上に横向きに寝ていて、上にはタオルケットが乗せられてた。
体を丸めて、なにかむにゃむにゃ言ってる。
おお、本当に昼寝してるんだなあ。
子供は昼寝するもんだとは知ってたけど、毎日毎日、良く昼間から寝られるもんだ。
本当に寝てるのかどうか、試しに人差し指でほっぺたを押してみた。
「んみゅ……」
「〜〜〜!!」
くー!
いいね! いい!
猫みたいな声だった。
うーん、悪態つかないこいつは本当にかわいい。

 「サジータ」
あたしが新次郎の前で身悶えてたら、サニーが小声で話しかけてきた。
「用事があるんじゃないの?」
ばか、声を出したらこいつが起きるだろ。
あたしは唇の前で指を立て、黙っているように指示を出した。
肩をすくめるサニー。
でもそれ以上何か言っては来なかった。

 あらためて、新次郎をじっと観察する。
規則的にゆっくりとタオルが上下していて、触らなくてもそのぽかぽかした温度が伝わってくるように思える。
あたしは頭側の空きスペースに、慎重に腰を下ろした。
「んん……」
おこしちまったかと一瞬緊張したけど、新次郎は眠ったままだった。
今度はふわんふわんの髪をそっと撫でる。
あー、いいねー。
予想通りのさわり心地。
まさしく猫っ毛。
何度かそうやって撫でてやると、新次郎は身じろぎして手を伸ばしてきた。
あたしの膝に手を当てて、また規則的な呼吸に戻る。
新次郎が子供になっちまって初めて、あたしとこいつはゆったりとした時間を共有できたんだ。

 共有できたとは言っても、まああれだ。
新次郎は寝てるんだけど、さ。

 

 

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