サジータと新次郎 1

 

 新次郎のやつ、また昴にしがみついてるね……。
あたしは、テラスの椅子に足を組んで座り、新聞を読むふりしながら新次郎の様子をみていた。
サニーサイドの趣味でへんちくりんな事になってるこの屋上で、
新次郎は今、昴の足に抱きついている。
その昴はジェミニと何か話をしていて、別に新次郎の事を気にした風でもない。
話の内容がつまらないのだろう、新次郎は昴にくっついたまま、屋上のあちこちに視線を泳がせていた。

 暇なら、あたしのとこにくればいいのに。
新次郎、ほら、こっちむいてみろ。
気合を入れて念じるんだけど、全然通じないな。
霊力ってのは、万能なようでそうでもない。じれったいったらないよ。
精神に直接作用するような力を持ってる奴もいるみたいだけどさ、あたしは駄目だ。
でも何度もやってるうちにできるようになるかも……。
うー……こっちむけー……。
「どーしたんだサジータ、みけんがしわしわだぞー」
「し……」
しわしわってなんだ!
「は、はは、は、リカ、ちょっと嫌な記事が載ってたからさ」
あたしは必死に笑顔を浮かべてそう言い訳した。
でも口の端っこがピクピクしてるのが自分でもわかるよ。
「へー、ヤな記事かー。リカにもみせてみろ!」
「あっ」
リカは言うが早いが新聞を奪っていった。
ったく、すばしっこいんだよ。

 「ええとー。ぎゅう、にく、ねあ、げ」
牛肉!?
「このページ、肉の事ばっかりだ!」
「そ、そうさ。食品の値上げは深刻な問題だろう?」
「しんこくだ! リカ、いーっぱい食べたいのに!」
「そうだろうそうだろう」
あーあ、まったく、何やってるんだろうねあたしは。
リカの話に乗ってやるふりをして、一生懸命ごまかしてさ。
肉の値段なんてどうでもいいんだよ。
いや、どうでもよくはないけど、あーあ……。

 「何を話しているんだ?」
あたしとリカがなにやら大声で騒いでいたので、昴とジェミニもやってきた。
もちろん、ちっこい新次郎もいっしょだ。
「あのな、にくがな、高くなるんだって」
「ああ、今年は牛の病気などで生産量が減っているらしいからね」
「うしさん、びょーきですか」
すかさず新次郎も口を挟む。
わかったような顔で、会話に混ざってくるのがかわいいんだよ。
にっこにっこしちゃって、あーあの頭をぐりぐりしたい。

 「新次郎、ちょっとあたしのとこにおいで」
思い切って誘ってみた。
霊力よりは確実だ。
「やだ」
くそがき!
い、いやいや、怒った顔をすると、絶対寄って来ないんだよこいつ。
「ちょっとだけださ、ほら、頭なでてやるから」
「さじーたたんなでないもん。ぶつもん」
「ぶたないよ」
「まえはぶったもん」
ぶちん。

 「サジータ!」
あっ、しまった……。
気が付けば、号泣する新次郎。
慌てて子供を抱き上げる昴。
「……だってこいつ、な、生意気なんだよ!」
「だからって殴るな!」
うおお、やっぱりあたしが悪いのか。
まあそうなんだけどさ、こいつがいちいちあたしに反論するのがいけない。
「ちょっと抱っこしてみたかっただけなんだよ。悪かった」
一応あやまっておかないと、このガキ、いや、新次郎は、いつまでもあたしに懐かない。
謝った事で、昴は表情を和ませたけど、新次郎の方はそうはいかなかった。
「さじーたたんわるいです。しんじろーのこといつもぶちます」
ひっくとしゃくりあげながら、新次郎は昴にしがみついて、ますますあたしの悪口を言いつけた。
そのせいで昴の怒りの矛先も再びあたしへ。
あの目、恐ろしい。

 あたしは別に、新次郎を泣かせたいわけじゃないんだ。
むしろ仲良くしたいんだけど、上手くいかない。
新次郎が子供のうちに、なんとか関係を改善できるように、ちょっとがんばってみようと思うんだよね。

 

 

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確かに。

 

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