恋人の時間 1

 

 うわあ、新次郎と昴さん、今日も一緒に散歩してる。
ボク、ジェミニ・サンライズは、いつもと同じように、大事な相棒、ラリーに乗って朝の駆け足運動をしていた。
ラリーはさ、馬だから、やっぱりそれなりに走ってないと運動不足になっちゃうもんね。

 ボクが二人の散歩に気が付いたのは一週間ぐらい前。
セントラルパークで、新次郎が朝早くから剣の稽古をしているのは知ってたよ。
ボクも時々参加してたもん。
だから、その日も一緒に稽古しようと思ってセントラルパークに行ったんだ。
そしたら昴さんと新次郎が一緒に歩いてたんだよね。

 普通に声をかければよかったんだけど、二人があんまり幸せそうだったから、つい隠れちゃって……。
で、結局今日まで声をかけられないままなんだ。
新次郎が素振りをしている間、昴さんはいつも新次郎の近くで本を読んでたりする。
すごく自然で、なんだかボクがはいっていく隙間がないんだよね。
新次郎はいつもの場所で、こそこそしたりせず堂々と練習してるんだから、ボクが参加したって全然平気なんだろうけど……。
でもやっぱりちょっと遠慮しちゃうよ。

 

 だって、だってさ、新次郎は昴さんが好きで、昴さんも新次郎が好きなんだから。
つまり、恋人同士って事だよ。
はっきりそうだって二人が宣言したわけじゃないけど、多分、恋人同士。
気にしすぎなんだろうなって思うけど、でもボク、新次郎の事が好きだったから……。
最初に会った時、和服を着た新次郎を見てすごく嬉しかった。
ニッポンのサムライだもんね! かっこいいよ!
それに、同じように紐育に不慣れで、シアターでも同じように役者じゃない友達だったし。
でも新次郎はいつのまにかどんどん力を付けて行って、気が付いたらボクより先に舞台に立ってた。
プチミントを初めて見たときはびっくりしたよ。
だって、ボクよりかわいいなんてずるい。
そんな風にだんだん新次郎は実力を付けて行ったはずなのに、ボクに対しても態度が全然変わらなかった。
いつもニコニコしてて、ボクが落ち込んでいるとすぐに励ましてくれて……。
だから、気が付いたらいつのまにか新次郎が好きになってた。

 新次郎が笑ってくれると、胸がきゅーっとなって、新次郎はいつでも笑顔だったから、ボクはきゅーっとなりっぱなし。
いつかボクが舞台に立てるようになったら、その時は新次郎に、ちゃんと好きだって言いたかった。
だから前以上に一生懸命勉強したんだけど……。
新次郎をいつも見ていたから気が付いちゃったんだ。
ボクが新次郎を見てるように、新次郎は昴さんを見てるって。
でも最初はそんなに気にしてなかった。
昴さんにあこがれる人はいっぱいいる。
ボクだってそうだよ!
だけど昴さんは誰とも交際したりしないって聞いてたし、ボクもそうだと思ってたから。

 でも……。
昴さんはいつからか、すごく優しく笑うようになった。
前はいつでも張り詰めたような顔をしていたのに。
新次郎と昴さんは、こっそり視線を交わし合ってた。
そんな時の昴さんの笑顔はうっとりするほど素敵で、ボクはすごくへこんだんだ。
だって、絶対かなわないもん。
だけどさ、何もしないで諦めるのはサムライじゃない。
ボクだって告白はしなかったけど、それなりに一生懸命アピールしたんだよ。
クリスマスの時とか、勇気を出して新次郎を誘ったり。
でもボクが誘った時、もう新次郎は昴さんと約束しちゃってたんだ。
今考えたら、あの時出遅れたのが一番駄目だったよ。
もしも先に誘えていたら、新次郎はボクとクリスマスを過ごしてくれたかもしれないもの。
クリスマスのあと、新次郎と昴さんは急に仲良くなって、本当の恋人同士みたいに……、ううん、本当の、恋人同士になった。

 

 ボクはラリーのおなかをポンと蹴って、合図を出す。
そうすると、ラリーはギャロップになって、石畳の街路を気持ちよく走っていく。
かぽかぽと蹄の音。ボクの大好きな音だ。
ラリーが楽しそうに走っていると、ボクも嬉しい。
新次郎の事はいまでも大好き。
昴さんも大好き。
だから新次郎に恋してた気持ちは早く忘れたい。
二人とも大事な親友だもん。
もうちょっとしたら、二人のいる公園で、また前みたいに一緒に剣の練習をしようと思う。
でも今は駄目。
きっと寂しい。

 「ラリー、そろそろ帰ろっか!」
ボクは心配そうに足を止めたラリーに明るく声をかける。
どっかに素敵な男の人がいるといいのにな!

 

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