君に贈る 

 

 大河は僕から受け取った巨大な紙包みをテーブルに乗せ、まずは巻いてあるリボンを丁寧に外した。
手に取ったリボンはそのまま放置せず、くるくる畳んで片付けようとする。
「じれったいね! そんなのあとでいいんだよ!」
大河の行動が待ちきれないのか、サジータはリボンを奪い取った。
「ああっ! ひどいじゃないですか!」
すかさず抗議して奪い返すと、今度はそれを僕に渡す。
「あとでちゃんと片付けますから、持っててくださいね」
「わかったわかった」
こんな装飾用のリボンすら大事にしようとする恋人に苦笑して、僕も彼のやることを見守った。

 あとは包装紙を開けるだけなのだけれど、大河はごそごそと周囲を弄るばかりで一向に中身が見えてこない。
またしてもサジータがイライラしている様子が伝わってくる。
リカなど、今にもプレゼントに飛び掛って包みを開けてしまいそうだ。
そうなる前に、助け舟を出す。
「どうした、あけないのか?」
「開けます! 開けたいんですけど! 紙の端っこがみつからなくて……」
「そんなのビリビリにすりゃいいんだよ!」
口だけじゃなく同時にサジータは手を伸ばしたが、今度は大河もその行動を予期していたのか、すかさずプレゼントを抱えて持ち上げた。
「駄目です!」
それから、注目している全員を見渡して、しっかりと宣言を。
「これはここではあけない事にします」
「えええーーー!」

 「ひどいよ新次郎、ボク、中身がみたいよ!」
「リカもみたいー!」
「なんだよ、待ってたのに!」
「大河さん、ゆっくりでいいので、開けてみてください」
全員が口々に言うのだが、どうしたことか大河は首を縦に振らない。
こうなったら彼は頑固だ。
「いいえ、ぼく、やっぱり落ち着いて開けたいんです。――いいですか、昴さん」
おっと、今度はみんなの視線がこちらに。
「……それは君にあげたんだ。好きにするといいよ」
途端に返ってくる満面の笑み。
それでみんなも諦めたようだった。
不満を言いつつもゾロゾロとテラスに向かい、遅くなった昼食へと向かった。

 休憩を終えて、全員が持ち場に帰った後、僕はなんとなく楽屋に入って、プレゼントの包みをながめた。
このぬいぐるみ、勢いで買って、勢いで渡してしまったけれど、本当にこんな物がプレゼントでよかったのだろうか。
今更ながらになんとなく悔やまれる。
開封していないし、このままこっそり持ち帰って……、などと考えていたその時、当の大河が現れたので、僕は慌てて包みから手を放す。
「あれ? 昴さん」
大河は僕を見るなり首をかしげ、それから巨大な贈り物に笑みを浮かべた。
「えへへ、実は、やっぱり気になって。みんながいないうちに開けちゃおうかなって」
「それなんだけど、大河……」
ひどく言い難いのだが、やはり、ほかの物の方が良い気がする。
「これはあまりに大きすぎるから、違う品物を選びなおそうかと……」
「え?! そうなんですか!」
大河はとても驚いたようで、大きな眼をまん丸にしている。
まあ普通は一度贈った物を、やっぱりやめたい、などと言われたら驚くか。
「すまない。だからこれは……」
「大きい以外には、問題、ないんですよね?」
「うん、まあ、ね」
ぬいぐるみと言う時点で問題がないわけではないような気もするけれど。
「じゃあこれがいいです」
きっぱりと言って、大河は止める間も無く包みを手に取った。

 紙の境目から、破ってしまわないように、大河は丁寧に包装紙を開ける。
出てきた巨大なぬいぐるみを目の前に掲げて固まってしまった。
やはりそれが普通の反応だろうな。
「すまない、つい、勢いで……」
「すごいですねこれ!」
硬い表情をしていた大河が、ぱっとこっちを向いたかと思うと、途端に興奮した口調で話し始めた。
「こんなに大きなぬいぐるみ、はじめて見ました!」
「いやでも、大きすぎ……」
「あははっ、今日からよろしくな!」
「……」
「ねえ昴さん、これ、名前をつけてもいいんですか?」
「ああ、実はその、名前はもうあるんだ」
僕は彼に耳のタグを見せてやる。
「タイガー? 昴さんが名前を付けたんですか?」
「いや、最初からついてた。誕生日も……」
「へえー! すっごいですね!」
そう、だからつい買ってしまったんだ……。

 「君の部屋にこれは大きすぎる。違う物の方がよくないかい?」
役に立つ物ならともかく、こいつはただのぬいぐるみだ。
僕は改めてそう提案してみた。
ただでさえ狭い部屋なのに、ぬいぐるみで場所を占領してしまうのは問題だ。
けれど大河はぬいぐるみを抱きしめたまま離さない。
「でもぼく、こいつが気に入ったんだけどな……。あっ! そうだ!」
パッと顔を輝かせたと思うと、大河は巨大なぬいぐるみを僕にぎゅっと押し付けた。
「昴さん、預かってください!」
「は?」
何を言い出すんだ。
「昴さんの部屋にあれば、いつでも見られるし。……駄目ですか?」
そんな切ない目で見るな!
確かに贈ったのは僕なのだから、責任の一端は間違いなく僕にある……。
しかし、しかし、だ。
「……駄目ではないけれど……」
大河が差し出したクマを受け取って、僕は彼に見えないように口を尖らせた。

それじゃあ、僕が君にあげた意味がないじゃないか!!

 

 

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ある意味返品なんじゃないかと昴さんは思った。

 

 

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