君に贈る 7
僕が手ぶらでシアターに戻ったのを見て、仲間達はがっかりした顔をした。
「なんだよ昴。せっかく時間をやったのに、何も買わなかったのかい?」
サジータはあきれた様子を隠さない。
「いや、買ったよ」
そう、買う事は買ったんだ。
「えー、見せて見せて!」
ジェミニが身を乗り出し、ほかの全員も一気に目が輝いた。
「店からここに送ってもらうことにしたんだ。でも……」
「でも?」
僕は溜息をついた。
さっきのクマを、僕はなぜか購入してしまった。
なぜかもなにも、名前がタイガーで、誕生日も同じだったからなのだが。
それにしても、あんな巨大なぬいぐるみを買ってしまうなんて、僕は少々正気を失っていたとした思えない。
「……それを大河にやるかどうか、まだ決めていない」
「えー?!」
全員が唱和して、僕は苦笑する。
「なんのために出かけてきたんだい!」
「もったいないよー」
「そうですよ昴さん、いったい何を買ったのですか?」
「お菓子か?! クッキーか?!」
「いや……」
僕がぼそぼそと品物を告げると、
みんなの目が丸くなる。
続けて大笑いしたのはサジータだ。
「くまのぬいぐるみ?! あっはっはっ! 最高じゃないか!」
「まだアレを贈るとは決めていない」
「いいえ、贈るべきですよ昴さん!」
なぜかダイアナはとても興奮していて、僕の両手を強く握った。
「だって、くまさんですよ、きっと、大河さんにお似合いです」
うっとりと呟いて、その場でくるくる回りだした。
「しかも、お名前もお誕生日も同じだなんて、これは運命……。そう、運命ですとも……」
なんだか一人、違う世界に行ってしまったダイアナを、僕は苦笑して見守るしかない。
「なあすばるー、そのくま、いつになったら届くんだ?」
「昼休みには到着すると思うよ」
「そうか! じゃあもうすぐだな!」
リカはぬいぐるみそのものが楽しみなようだ。
子供は大きなぬいぐるみが好きだから。
話している間に昼休みになり、その大荷物は予定通り到着した。
リカは、僕が配達係りにサインしている間に、包みの上からクマに抱きついていた。
「でっかいなー!」
「あーだめだよリカ、しわしわになっちゃうから、ね」
ジェミニがリカを持ち上げて、包装紙入りのクマは解放される。
「しっかし、本当にでかいねこりゃ」
「まあね。だから悩んでいるんだ」
あらためて間近でみると、その大きさに、ますます贈るべきではないのではないかと思えるのだ。
子供一人分のスペースが、間違いなく必要だ。
横幅だけならリカの腰の3倍ある。
「早くくまさんのお顔を拝見したいですね」
「ちょっと開けちゃえばいいんじゃないか? そーっと、わかんないようにさあ」
サジータがとんでもない事を言うので僕はあからさまに冷たい視線をやってしまった。
そういえば、以前彼女からもらったプレゼントに、開封された形跡を見つけたことがある。
きっとあれは、彼女が、そーっと、わからないように、中身を確認した結果だろう。
「だめだよサジータさん! そーっとあけてもわかっちゃうんだから!」
今回は僕が止めるまでもなく、ジェミニがまたクマの危機を救ってくれ、事なきを得た。
やはりジェミニは頼りになる。
そこへ、何も知らない大河が顔を覗かせたものだから、みんな一斉に口を閉じた。
しらじらしいまでに唐突に、楽屋が静まった。
「みんな、テラスにお昼を用意してありますよ!」
そんな雰囲気をものともしないのが僕の大河だ。
けれども誰も動かないので、さすがの大河も怪訝な顔。
それからみんなの視線が集中している方向を見てまたたく。
存在感を主張している、巨大な包みだ。
この期に及んでまだ僕が迷っていると、誰かが僕の背中を突っついた。
誰だ……。
しかしそれをきっかけに、僕は仕方なく一歩前に出る。
「大河……」
「はい?」
「実は、その……」
「……?」
不思議そうな顔。
僕はなんだか急に面倒くさくなった。
なぜ僕だけみんなの見ている面前で彼にプレゼントを渡さねばならないのか。
ツカツカとクマの入った包みに歩みより抱えると、まっすぐに大河に差し出す。
「誕生日おめでとう。これは君への贈り物だ」
途端、楽屋にワッと歓声があがり、みんなが口々に、誕生日おめでとうと大河を祝った。
大河は心底驚いたようで、巨大な包みを受け取ったままあっけにとられている。
「あけないのか?」
僕は諦めて笑う。
「みんなは中身を知っているんですか?」
「ああ。知らないのは君だけ」
「しんじろー、はっやく! はっやく! リカ、中身がみたい!」
リカだけでなく、全員が中身に注目していた。