君に贈る 

 

 僕が早計にも大河に直接、誕生日プレゼントに何がほしいかを問いただし、あえなく玉砕した、その翌日。
仕事を早めに終えた午後に、大河の誕生パーティが開かれた。
みんな彼の事を愛していたから、それは素晴らしいパーティだった。
仕事の都合上、誕生日の前日に行われたとはいえ、そんな事は関係ない。
彼が笑顔になるたびに、目にした人間もみんな笑って……。
次々に贈られるプレゼントのすべてを、大河は演技ではなく心から喜んで受け取っていた。

 リカとジェミニは当初の話どおり、大量にクッキーを作ってきた。
ノコの型紙はジェミニが作ったらしい。
星の模様をココアクッキーで作り、なかなかに精巧な代物だった。
そのジェミニはラリーと蹄鉄の形のクッキー。
大皿一杯のクッキーを、大河は当然みんなにわけてくれた。
リカのクッキーは甘すぎたし、ジェミニのクッキーは大いに粉っぽかったけれど、二人の愛情が素晴らしかった。
ダイアナの入浴剤セットに、大河は少し恥ずかしそうだったけれど、さっそく使ってみますと照れた笑いを見せている。
ワンペアが贈ったスーツは、僕も感心するほどセンスの良いものだった。ノーブランドだったし、決して高価なものではなかったけれど、下手なブランド物よりもずっと素晴らしかった。
さっそく上着を着せ掛けてもらって、大河は幸福そうだ。
サニーサイドは浪漫堂でおかしな掛け軸を購入していた。
不思議な着物を着た、ヘルメットをかぶったような髪型の、日本人のようなそうでないような、そんな人物が描かれた珍妙な掛け軸。
そんなものでもやはり大河は嬉しそうだった。
しかしできれば、部屋に飾って欲しくないなと僕は苦笑する。

 王先生は出水芙蓉という、湯を注ぐと花が咲いたように見える中国の茶だった。
その場で一つ淹れて見せてくれたが、一つではなく、百花が咲いたように見事だった。
めずらしい物をみられたので、大河だけでなくみんなも沸き立つ。
僕も少し興奮した。
それぐらい素晴らしく美しい物だった。
加山は大きな四角い紙包みを渡していたが、ここであけるなと念をおしている。
僕のみたところ、あれは本の束だ。
いかがわしい代物に違いないが、大河は年頃の青年でもあるし、まあ見逃してやる。
サジータの乗車券には大河も少々困惑していた。
なにせ、使うとなったら必ずサジータの後ろに乗らなければならないのだから。
彼女は満面の笑みだったが、大河は今度使わせていただきますと、ちょっと困った笑みだ。
僕もこの贈り物はあまり嬉しくない。
大河がサジータの背中に抱きついている様子は想像したくないしね。

 

 一斉にではなく、みんな好き勝手に贈り物を渡していたので、みんなは気付いていないようだった。
――そう、僕は結局何もプレゼントを用意できなかった。
何を贈ったらいいのか、サッパリわからなくなってしまったせいだ。
だからせっかく彼の為のパーティなのに、どこか心にひっかかりを感じながら、僕は彼を祝った。
でもこのままでは駄目だ。
大河に謝罪しないと。

 

 パーティがお開きになり、みんなが帰路について、僕は大河と二人、夜の街を手を繋いで歩いた。
僕のホテルまで歩き、そこから大河はタクシーで帰る予定だ。
少しだけアルコールの入った大河の手は、いつもよりも暖かい。
「ねえ、大河」
「はい」
帰ってくる笑顔もほんのり赤い。
「気がついている……?」
聞くと大河は頷いて、でも笑顔を崩す事はなかった。
「昴さんが、ぼくに何もくれなかった事、ですよね」
僕は黙って頷いた。
「君に何を贈ればいいのか、わからなくなってしまったんだ」
「ぼくが昨日、いじわるを言ったせいですね」
大河は立ち止まると、僕の目をじっと見る。

 「昴さんは昨日、ぼくに、何が欲しいかって聞きました」
「うん」
ナイショだって言われてしまったけれど。
「……本当はぼく、欲しいものが何も思い浮かばなかったんです」
欲しいものが何も思い浮かばない。そんな事があるのだろうか。
「だってぼく、欲しい物はなんでも持っています。仲間がいてくれるし、なにより昴さんが……」
僕の手を両手でしっかりと握り、真剣な表情だ。
思っていたより、彼は酔っているのだろうか。
「昴さんがぼくをお祝いしてくれるってだけで、ぼくには最高のプレゼントです」
真顔で言われると僕の方が照れる。

 嬉しい言葉だったし、僕の方が贈り物を貰ったような気持ちになってしまったが、
でも。
大河、僕は君に何か、形に残るものをあげたいんだ……。

 

 

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何にしたら良いかわからない。困る昴さん。

 

 

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