君に贈る 

 

 大河への誕生日プレゼントが決まらないまま数日が過ぎた。
その間、ジェミニとサジータだけではなく、リカとダイアナにも何を贈るつもりなのか聞いてみたのだが。

 「リカか?! リカなあ、ノコケーキにする」
「ノコケーキ?」
ノコ型のケーキであって欲しい。
「ノコをな、まるごといれてな」
「……」
ああ……。
軽いめまいを覚えたが、リカにとって、ノコは大事な友人でもある。
そのノコを新次郎に食べさせてやろうというのだから、それはとても崇高な考えだ。
まあ、以前朝食にリカが用意したホットケーキには、ノコが生きたまま乗っていたわけだけれど。
それにしてもまた食べ物か。

 「リカ、ノコは次の機会にして、お菓子にするならジェミニと一緒にクッキーを焼いたら?」
僕の提案を聞いて、ジェミニも手を叩いた。
「そうだよリカ! ボク、ラリーの形のクッキーにするからさ、リカはノコの形にしようよ!」
「ジェミニと一緒か? そしたらいっぱいいーっぱいつくれるか?」
「いーっぱい! 作ろう!」
「わかった! リカ、ジェミニと作る!」
傍で聞いていたノコも、心なしか安堵の表情だ。
この小動物はいつも人間の言葉を克明に理解しているように思える。

 「で、ダイアナは?」
「わたしは、お風呂セットにしようかと……」
「お風呂セット?!」
意外な内容に全員が唱和した。
「は、はい。入浴剤と、タオルと、石鹸にシャンプーとリンス。それからスポンジのセットです」
「そりゃまたあんた、随分と……」
サジータはニヤニヤ笑いながら僕を見る。
僕はゴホンと咳払いをしてから話し始めなければならなかった。
「いいんじゃないか? 大河は運動するし、役に立つ」
「ですよね! わたし、大河さんにぴったりのタオルを見つけたんです。ピンク色で、それはかわいらしいんですよ」
「ピンク……」
「シャンプーもリンスも、ストロベリーの香りがかわいらしくて」
あ、くそ、サジータがますます僕を見ている。
「ダイアナ、それは、大河、ではなく、プチミント用なんじゃないのか?」
「あら、大河さんはプチミントさんなのですから、必要ですよ」
「しんじろープチミントになるのか?」
リカまで話に混ざってきて、もうわけがわからない。

 「サジータ、君はプレゼントを変更したんだろう?」
話題も変更。
「ああ、あたしはこれにした」
サジータが胸元から取り出したのは、数枚の手書きのチケット。
ジェミニが手にとると、みんなどれどれと覗きこみ、
「えっと、バウンサー、一時間乗車券……だって」
「どうだ、すごいだろ」
心底満足げに、サジータは腰に手を当てている。
「あたしの大事なバウンサーに一時間乗れる券が五枚だよ! 新次郎も大喜びだろうさ」
「だがサジータ。彼は大型バイクの免許を持っていない」
「あたしと一緒に乗るんだよ」
「……」
「ずるいよサジータさん!」
「ずるいぞサジータ!」
「ずるいです、サジータさん!」
一斉に声があがるのも頷ける。

「ボクだって新次郎と一緒にバイクにのりたいよ。そうだ! プレゼントをラリー乗馬券にしようかな!」
ジェミニは口を尖らせ、拳を振り回した。
「リカも! リカも一緒に乗る! しんじろーと!」
「わたしは……バイクや乗馬は無理ですけれど、ご一緒に散歩してみたいです」
「シャラップ! 乗車券はあたしのアイデアだからね!」
やれやれ。
大河がみんなに愛されているのは良くわかるけれど、困ったものだ。

 「そんで昴は結局どうすんだ」
もう彼女は乗車券にすっかり決めてしまっている。
「うん……。みんなの話を参考に決めようと思う」
「まだお決まりじゃなかったのですか?」
ダイアナに問われて苦笑する。
参考に決めると言ったが、正直ますますわからなくなっていた。
彼は僕から何を貰いたいのだろう。
何をあげたら、彼は喜ぶのだろう。

 まあ、乗車券じゃないのは確かだが。

 

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贈った人が嬉しいプレゼント。

 

 

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