君に贈る 2

 

 「え? 新次郎に?」
聞かれたジェミニは頓狂な声を出した。

 大河への誕生日プレゼントの事だ。
他の皆が一体何を贈るのか、試しに聞いてみようと思った。
事前に調査しておけば、彼の好みに意外な一面を知ることができるかもしれないし、
他の誰かと品物が被る事もあるまい。

 「ボクね! 新次郎にはね〜」
なんだか、もじもじくねくねと、ジェミニは落ち着かない様子。
「うん、新次郎には?」
じれったいのだが、ここは急かしてはいけない。
ジェミニには悪気がないのだから。
「手作りのクッキーにしようかな! って思ってるんだ!」
「クッキー……?」
「うん! おいしいクッキーを焼いたら、新次郎は……。ジェミニ、これ最高においしいよ! ええ〜そうかな〜! うん、どこで買ったの? ……買っただなんてー、ボク、自分で焼いたんだよ!」
ここでジェミニは顔を真っ赤にして小さくジャンプした。
「すごいやジェミニ! 最高のお嫁さんになれるよ! きゃ〜〜!」
「……」
そこで終わりかとおもいきや、まだ続く。
「じゃあ新次郎、新次郎がボクのお婿さんになってくれる? ……えっぼくにはもう昴さんという人がー! なんちてなんちてー!」
「……」
「はっ!!」
急に真顔になった彼女は、しゃがみこんで頭を抱えた。
「ご、ごめんなさい昴さーん!」
「い、いや、いいんだ。大河はクッキーが好きだし、きっと喜ぶよ」
「そうかな……」
顔をあげたジェミニは、恥ずかしそうに笑った。
その表情がとてもかわいらしかったので、僕も笑ってしまう。

 ジェミニが大河の事を淡い恋心で見つめていた事を知っている。
それでも僕らのことを応援してくれる彼女は本当に立派だ。
僕だったらもっとどろどろとした嫉妬が渦巻いて、きっといつまでもここに留まってはいられなかっただろう。
彼女の明るく、前向きな姿勢が、いつも僕を尊敬の念へと導く。
「ねえ、それで、昴さんは、何をあげるの?」
「僕?」
まだ全然決まっていない。
そう教えると、ジェミニは首をかしげた。
「そっかー、でも、新次郎は昴さんがくれたものなら、なんだって喜ぶよね!」

 なんでも喜ぶ……。
確かに、そうかもしれない。
僕が何を渡しても、彼はきっと、心から喜んでくれる。
しかしそれが、やっかいなんだ。
真実欲しかった物を渡せたのかどうか判断し難い。
「おっ、なにしてんだいあんたら」
僕とジェミニが話していると、サジータが楽しげに会話に割り込んできた。
彼女は先日、むずかしい裁判で勝利を得ていたため、すこぶる機嫌がいい。
「ねえ、サジータさんは、新次郎の誕生日に何をあげるの?」
「あたし? 秘密だよそんなの」
秘密といいつつも、彼女が喋りたがっている事を知っている。
「ボク、手作りクッキーにするんだ。リボンをまいてー」
「ふうん、あたしはソウルフルなフライドチキンをどっさりやろうと思ってたんだよ」
ほら、秘密といいつつ、あっさり喋った。
それにしても……。
「チキン?!」
「……昴は言った。もう一度、考え直すべきだ、と」
真夏だというのに、すぐに食べねば腐るようなものを大量に贈るのか。
「だってさあ、新次郎の奴、男のくせに細すぎるよ。もうちょっと太った方がいいと思うんだよね」
まあそれは僕もわからないではない。
でも彼は、服を着ていると細く見えるけれど、脱いでしまうと……。
「お? どうした昴、なんか顔が赤くなってるぞ」
「なっ! なんでもない!」
慌てて扇で顔を覆ったが、赤面している様子を目撃されるとは、不覚だった。
「で、昴は何をやるんだ?」

 興味深げな彼女を見て、溜息をつく。
「まだ決まっていない」
「決まってないのか。でもそろそろ決めないと迷う事になるよ」
「大分固まった。君達二人が食料品なら、それ以外がいいだろうな」
「そうだね! みんな食べ物だったら新次郎困るよね」
「うーん。あたしも変えようかなあ。チキンは誕生日パーティの料理に出される気がしてきたよ」
全くその通りだ。
「よし、あたしも考え直そう」
サジータはあっさりとそういうと、鼻歌を歌いながら去っていってしまった。

 「昴さん」
「うん?」
「プレゼント、決まらないなら新次郎にきいてみたら?」
「大河に?」
それは考えなかったな。
「そしたら、欲しい物を絶対言ってくれるだろうし、いいんじゃないかなあ」
「なるほど。そうだな、もしも直前まで決まらなかったらそうしよう」
なるべくなら自分で考えたい。
でもどうしても答えが得られなかったらそうしてみるのもいいと思えた。

 しかし一つ前進があったのだから今日はこれでいい。
食べ物以外の何か。これだ。

 

 

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ドラマCDでそんな事が暴露されていたようないなかったような。

 

 

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