叔父の訪問 2

 

 大神司令が来る事を、大河は僕の次にサニーサイドから聞かされた。
司令室から戻った彼は、頬が紅潮し、やや緊張した面持ちで僕に報告してくれた。
「来週、一郎叔父……じゃない、大神中尉が紐育に来るんですって!」
「そうか、久しぶりに会うんだろう?」
僕は何も知らないふりをして、大河の笑みを複雑な心境で眺めた。
もしも、叔父が自分を連れ戻したいと思っていると知ったら、彼はそれでも喜ぶだろうか。
「久しぶりだなあ、早く会いたいなあ」
僕の想いを何も知らない彼は、憧れの叔父の姿を思い浮かべて懐かしそうな顔をする。

 二人で廊下を歩く。
なんとなく、僕は彼の手を握った。
「!」
大河は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにしっかりと握り返してくれた。
ゆっくりと歩む道。
ただの短い廊下だったけれど、僕は複雑だった。
彼は何も知らないけれど、もしかしたら、一週間後、叔父と一緒に日本に戻るかもしれないのだ。
そうなったなら、こうやって隣にいられるのも、あとどれぐらいの時間が残されているのかわからない。
「……っ」
慌てて下を向く。
沢山の思い出や、これから先に夢想していた彼との日々が、一気に胸を刺し貫いたから。
きつく目を閉じる。
大丈夫。大丈夫だ昴。
そんな事、僕がさせない。

 「昴さん?」
「何?」
普通に返事が出来て、僕は内心ほっとしていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まっている。なぜ」
何も表情には出していないはずだ。
歩調や呼吸もいつもと変わらない。はず。
「手が、いつもよりも冷たいです」
「外にいたから冷えたんだろう」
大河の奴、変なところに敏感だ。
まったく、普段はひどく鈍感なくせに……。
上手くごまかしたつもりだったが、大河は納得しなかった。
歩みを止めて、僕の顔をじっと見下ろす。

 視線をまっすぐに受け止めるのが辛かった。
けれども目を反らしたら、それこそ何かあったと疑われてしまう。
僕は平静なふりをして視線をうけとめ、扇で口元を覆って微笑んだ。
「心配性だな君は。そんな事よりも、叔父上がいらしたら、どこに案内するか考えた方がいい」
「ぼくには昴さんの方が大事ですから」
「!」
な……。
なっ……!
どう反応していいかわからずに、とっさに後を向いた。
ばかばか! ばか大河!
くそ、顔に朱がさしている。絶対に振り向けない。
「どうしたんですか?」
本当に馬鹿だな!

 「?」
きょとんとした表情。
仕方がない。そんな君が好きになってしまった僕の負けなんだ。
どうしようもなく察しが良く、どうしようもなく鈍感な。
「一緒に叔父上を歓迎する方法を考えよう」
「はい!」

 とりあえず、僕は僕で対策を考えるしかない。
大神一郎が紐育入りしてからでないとわからない事も多いからだ。
たとえば大河を連れ戻す理由だ。
紐育でやっていくにはまだ未熟だから、熟練の戦士たちが集う帝都に戻したいのか、
それとも、紐育で立派に役割をなしとげているから、帝都でも隊長として努めて欲しいのか。
それによって、僕の対応も違ってくるからだ。
様々なパターンにあわせて対策を考えなければいけない。
まずは、大河と共に彼を歓迎する準備を整え、大神一郎の人となりを知ることから始めようと思う。

 

TOP 漫画TOP 前へ 次へ

するどい大河はとても好きです。

inserted by FC2 system