叔父の訪問

 

 僕がその話を聞いたのは一週間ほど前の事だ。
サニーサイドに呼び出され、説明を受けた。

 「ミスター大神が紐育へ視察に来る事になったんだ」
サニーが何気なくサラリと言った内容は、なかなか重大な知らせだった。
「大神司令が? 何の為に」
「何のって、だから視察」
「嘘をつくな」
特に事件もなく、星組自体も安定しているし、彼が視察に来る様な特別な事をしているわけでもない。
さらに言うなら、サニーサイドが理由もなく一番最初に僕に知らせるわけがない。
本来なら隊長であり、大神の甥でもある、新次郎に一番に伝えるだろう。

 「嘘とはひどいなあ……」
「本当の理由は?」
僕はサニーの言葉を聞かずに続ける。
こいつの話にいちいち相槌を打っていたら話はいつまで経っても終わらないからだ。
「名目は視察なんだから、勘弁してよ」
ほらな。
「その視察とやらと僕になんの関係が?」
「それなんだけどね……」
サニーサイドはデスクに肘を突き、手を組んで僕をじっと見た。
これは、何か含みのある時の彼のクセだ。
ハッタリの場合も多い。
何を聞かされても平静でいる自信のある僕には無意味だけれど。

 けれども、僕のそんな考えはサニーの一言で吹き飛んでしまった。
「ミスター大神は、おそらく大河君を連れ戻しに来るんだと思う」
「!」
「先日、司令会議で話し合いをした時、そういう案があったんだ」
「なんだと?! そんな話、一言も聞いていない!」
「だって、その時は大河君はこのまま紐育にいてもらったほうがいいって結論だったからさ」
「当然だ!!」
大河は僕達紐育華撃団の物だ。
これだけは絶対に、譲れない。
僕達がゆっくりと時間をかけて築いてきた信頼関係は、何者にも代えがたい。
「まあ落ち着いて」
無茶を言うな!
心の中で僕は叫んだが、目を閉じて息を吐く。
冷静にならなければ。
くそ、サニーの奴……!
心の中で上司に悪態をついて、僕はサニーを睨んだ。

 「それでさ、ミスター大神がこっちに来る時に、大河君の様子を見て、情況によっては帝都に戻すかもって言ってたんだよ」
「なぜそんな事を……」
混乱して思考が空回りしていた。
論理的に考えなければ。
ちゃんと冷静になれば理由はわかるはずだ。
必死で自分を宥める。
「帝都花組の隊長にしたいというわけか……」
「そうかもしれない。紐育も信長とツタンカーメンという脅威を追い払って、当面は安泰そうだからね」
「そんな勝手な……」
声にだしたつもりじゃなかったのに、いつのまにか口が勝手に言葉にしていた。
「大体、本当なら大河は最初から紐育じゃなくて帝都を守るはずだったんじゃないのか? 無理やり紐育に送っておいて、今更連れ戻すと言うのか」
あんまりにも身勝手すぎる。
いきなりつれてこられたこの街で、大河がどんなに努力をしたか。
僕達が今、どんなに彼を必要としているか……。

 「わかってるよ、ボクだって、大河君を連れてかせるつもりはないんだ」
サニーサイドがメガネの奥で笑った。
「そこで昴、相談だ。大河君にこの事は伏せたまま、ミスター大神に、紐育の隊長には大河君しか考えられないとわからせてやって欲しい」
「大河に伏せたまま?」
「だってさ、大河君は叔父さんの意見に逆らったりしなさそうだもん」
まあ、そうかもしれない。
「けれどもその役目は、僕よりも他の人間の方が適任じゃないか?」
情に訴えたり、誰かのことを褒め称えるのは得意じゃない。
もっと、ダイアナや、ジェミニのような人物の方があっている気がする。
「いや、昴に頼むよ。一番大河君の事を知っているのは昴だからね」
「!」
サニーの奴!
不意を突かれて頬が熱を持つ。

 「とくかくさ、ボクとしても、せっかく馴染んだ隊長を代えられると、仕込みなおすのめんどくさいんだよ。
ましてや代わりにミスター大神が来る、なんて事態もありえるからね。今更そんなのごめんだねえ」
今度のサニーの言葉に嘘はないようだった。
心底面倒くさいと考えているのだろう。
確かに、僕達だって、大河以外の隊長の下に付くのは、今現在考えられない。
大神一郎は切れ者だと言うが、だからこそ、互いに支えあって戦っている僕達の隊長には向かない。
サニーが面倒だと言っているのは、おそらく、階級的には同じ司令である大神一郎が、今更隊長になられては迷惑だからだろう。
命令系統も二分される可能性があるし、お互いに気を使って落ち着かない。
最初からそういう状態だったならともかく、本当に今更だ。

 「わかった、一週間後だな」
「うん。ボクもなるべく協力するから、よろしくね」
僕は覚悟を決めた。
何が何でも、大河を連れて行かせたりしない。

 

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昴さんががんばるお話。シリアスなようでいてそうでもない。

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