楽園の華 1

 

 「潜入捜査、ですか?」
会議室で大河はモニターに映し出された画面を見つめながら上司に聞いた。
紐育の私立高校に問題が生じているというのだ。
「うん、編入試験を受けて、合格した人間を送り込む」
サニーサイドの言葉に昴は眉をしかめる。
「誰も合格しなかったらどうするつもりだ」
「昴が合格しない高校だったら、誰も入学なんてできないよ」
もっともな言葉だったが昴は納得しない。
「僕は潜入捜査に加わるつもりなどないぞ」

 昴は立ち上がり、モニターを示す
「女子生徒の一人が不自然に行方をくらまし、教師も生徒も心当たりがない。良くある事件だ。どうせ家出かなにかだろ。僕たちが出て行く必要はない」
モニタに映し出されているのは無表情に正面を向いた金髪の少女。
学生手帳か何かの写真なのだろう、その表情からは性格なども読み取れなかった。
サニーサイドは、そうなんだけどね、と前置いてからモニタを捜査する。
画面にはあらたに三人の少女が映し出された。
「実は、この学校で行方不明になったのって四人目なんだ」
その言葉に、星組のメンバーにも緊張が走る。
「三人まではなんとか偶然かもって思っていたんだろうけれど、さすがに四人目が出るとそうも言っていられなくて」
「のんきな話しだね」
サジータがあきれたように肘をつく。
「でも、あたしは試験なんてごめんだよ。第一高校生になんて見えないし」
「そういうのもあって、試験を受けてもらうのは大河君と昴の二人のつもりだったんだけど、昴が嫌なら大河君だけになっちゃうね」
「なんで僕と大河の二人だけなんだ!」
不満を噴き出すようにして昴が怒鳴る。
だがサニーサイドは平気な顔だ。
「サジータとリカは高校生に見えないし、ジェミニは次の舞台の主役だからさすがに潜入捜査はちょっとね。ダイアナは、ただでさえ医学部に通ってるのに学校二つもかけもちできないでしょ」
おいうちとばかりに肩をすくめて見せる。
「でも昴も嫌なら無理強いしないさ。大河君、やってくれるよね」
「はい」
こちらは迷いのないきっぱりとした返事。

 昴は不満げに唸り、こぶしで軽く机を叩いてから顔を上げた。
「僕も行く」
とたん、サニーサイドは満面の笑み。
「うん、昴ならそう言ってくれると思ったよ。編入試験は次の月曜だから、それまでに試験勉強しておいてね」
会議室のテーブルの上に、どこから取り出したのか、ドサドサと本の山が投げ出された。
試験を受けるわけでもないのにサジータは眉間にしわを寄せ心底嫌そうな顔。
ジェミニも尻込みするように顔をしかめた。
「ボク、多分、試験受けても合格しなかったと思う」
おおはしゃぎしたのはリカだ。
「すばるとしんじろー、しけん、おっこちるなよー!」
本の山を教科ごとに分けながら、大河は苦笑する。
「がんばるよリカ。でもこういう勉強は久しぶりだし時間もないから自信ないよ……。昴さんは勉強しなくても大丈夫ですよね」
当然だ、と頷くとみんなが思ったけれど、昴はすぐに首を振った。
「いや、入試の問題というのは独特だ。念のため一通りの予習はしたほうがいい」
昴にしては殊勝な言葉。
「大河、今夜から僕の家で試験勉強をしよう」
その言葉を聞いて、その場にいたほとんどの人間が、昴が勉強すると宣言した理由を察した。
しかし肝心な男はまるで理由を察していない。
「昴さんの家でですか? シアターの方が本を持っていかなくて済むから楽なんじゃ……」
「ここでは集中できない」
きっぱりと断言し、それ以上の議論を許さなかった。

 話がまとまったと見てサニーサイドが手を打った。
「じゃ、今日の会議はおしまい。解散ね。ゴクロウサマデシタ」
やれやれと全員が腰をうかせかけたその時、
「あっ、そうだ」
いかにも、わすれてた、という顔で、サニーサイドはつけたした。
「行方不明になるのは女子だけだから、昴も大河君も、女の子として試験を受けてね」

 

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