復活の日 7

 「新次郎が見つかったんですか?!」
ジェミニは連絡を受けてシアターのドアに突っ込んだ。
愛馬に乗ったまま。

 「ジェミニ…」
昴は思わず苦笑してしまった。
行動はあまり褒められたものではなかったが、
彼女が心底新次郎を心配してくれている事が伝わって来て嬉しかったのだ。
ジェミニはラリーから飛び降りて駆け寄って来た彼女に、腕の中の子供を見せる。
「ほら、今は寝ているけど無事だよ」

 「で…?信長は・・・?」
ジェミニよりもわずかに早く駆けつけたサジータは、難しい顔をして聞いた。
「そうだぞ!しんじろーは本物のしんじろーなのか?!」
リカも一応状況を理解しているようで心配そうだ。
「うん…大丈夫…もう奴が目が覚ますことはないだろう」
昴は新次郎を抱えなおして、手を伸ばしてきたダイアナに預けた。
「まぁ…沢山泣いたのね…」
彼女は頬に残る涙の痕跡を愛しげになぞった。

 指が触れる感触がくすぐったかったのか、
新次郎はうすく目を開けた。
「んっ…すばるたん…?」
「あら、うふふ…昴さんじゃありませんよ…」
ダイアナはやさしく微笑んで、新次郎を昴に返す。
「新次郎、大丈夫か?」
昴は、頷いて下りようとする彼を抱きしめ、下りる事を許さなかった。
下ろしてもらえなかったので、困惑して自分を抱えたままのその人の顔を見つめて首をかしげる。
黒く長い睫毛が微かに震えている。
その様子を見てますます困惑が深くなったが、
ハッと気がついて顔をあげる。
「そうだ!」
慌ててシャツをめくって、胸の下をじっと見た。

 「ほくろ!かえしてくれた!みて、すばるたん」
みんなの視線が集中するその場所に、たしかに薄く、だがはっきりと、五輪のあざが戻っていた。
「えへへ…よかった…」
昴の首に腕を回して頬を合わせる。
サジータは安堵の息をつきながら笑った。
「こんな風に腹を丸出しにしてみんなに見せたって、ぼうやが知ったらショックを受けるだろうねぇ」
「ふふ…秘密にしておかないといけないな」
みんなで笑い合って新次郎の頭を撫でる。
彼が敵になって、誰かに攻撃されるなど、本当に耐えられない。

 

 

 

 

 

 その日昴はタクシーを呼んでホテルに戻った。
普段は手を繋いで歩いたり、背負ったりして楽しんで帰るのだが。
今日は沢山歩いたせいで、新次郎が足が痛いと言い出したのだ。
部屋について着替えをさせながら、改めてその痣をじっと見る。
「すばるたんも、ありますよね?おんなじの」
黙ってそれを見つめ続けていると、新次郎はなにげなく聞いてきた。
驚いて顔をあげる。
「なぜ?」
一度もみせた事はないはずだ。
元の大河は知っていたが。
問い返すと新次郎はあっと小さく声を漏らした。
「ないしょだった!」
「ないしょ?」
眉根を寄せると、ますます慌てて顔を覆う。
その仕種がかわいらしくて思わず笑ってしまった。
「わかったよ…秘密なんだね、聞かないよ」
額にキスをして、寝巻きを着せる。

 

 

 信長が再び眠りについた時、新次郎は何度か彼と心の中で会話をしたのだ。
その中のいくつかを、わずかではあるが覚えていた。
彼は言っていた。
「そなたから奪った痣は、そなたを愛する5人の戦士、皆が持っているものだ」
頭の中に、痣の形と、みんなの顔が鮮明に浮かぶ。
「彼女達を大切にしろ…特に…」
際立って輝く昴の凛々しい立ち姿。
「この物は遥かな昔から、そなたを守っているのだ…今生ではそなたが守るのだぞ」
話の内容は良くわからなかったが、
昴を守ってあげたいと、ずっと以前から思っていたから、素直に頷く。
「それからな…この話をした事は秘密だぞ。あの物は何も知らないのだからな」
いたずらっぽく言った声の、その後半部分はほとんど聞き取れないほど遠ざかっていた。

 「おじちゃん、またね…」
「うむ…そうだな…そなたとは一心同体だ。いつかまた会えることもあるやも知れぬな…」
「いっしん…どーた…?」
難しい言葉の意味がわからずに聞き返したが返事は返ってこなかった。
「またね…」
お別れを言って、心の中で手を振った。
もう二度とは会えないのだと、本当はなんとなくわかっていた。
そしてその方が良いのだと言う事も。

 「すばるたん」
着替えを終えて、新次郎は昴に抱きついた。
「ふふ…どうした、甘えて…」
「きょうは…いっぱいたいへんだったんですよ!」
話し出した彼を抱き上げてベッドへ運ぶ。
「うん、何をしたんだい?」
「ええと…ゆめに…おじちゃんがね…」
話が長くなりそうだったので、昴は枕もとのスタンドの灯りを絞った。
「それで…?」
拙い言葉と表現で一生懸命話す。

 もし、もしも、新次郎の体をすべて信長が奪ってしまっていたら…。
そして彼が元の大きさに戻っても、そのまま彼の意識が戻る事がなかったら…。
そんな事は想像したくもなかったが、どうしても考えてしまう。
自分はもちろん彼を取り戻すために全力を尽くすだろう。
だが。
それでもだめだったなら…。
自分には彼を攻撃する事が出来ただろうか…。
そうする己を許す事が出来ただろうか…。

 話すうちに段々と、幼い言葉がとぎれとぎれになり、やがてわずかな寝息が聞こえ始める。
新次郎はついに眠ってしまったようだった。
「今日はお疲れ様…」
いつもよりも深く呼吸をする彼の、やわらかな髪を撫でる。
「何があっても、僕は君を守ってみせる」
それがどんな形であっても。
彼の呼吸に自分の呼吸を合わせると、徐々に睡魔が襲ってくる。

 幸せそうに眠る子供の寝顔を、閉じる寸前の視界に入れると、
遠ざかる意識の中で、愛する男の笑顔が浮かんだ。
「あんまり心配させるな…」
彼に向かってつぶやいて、昴は今度こそ、眠りについた。

 

 

 

 

暗いバージョンでは、信長はもっと悪だったのです。
敵対する辺りまで書こうかと…。
切なすぎるよ!って事で中止。

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