復活の日 4

 「そんなバカな!新次郎が敵なわけないだろう!」
サジータは頭に血が上って叫んだ。
「だけど、信長は敵だ」
サニーサイドはそんな彼女をまっすぐに見据えて続ける。
「まだ報告はしていない…。でも、何かあったら報告しないわけにはいかない。手遅れにならないうちに」
「何を言っているんだい!正気か!?」
黙って聞いている昴の肩を掴む。
「あんたもなんとか言ったらどうなんだい!」

 昴は顔をあげなかった。
俯いたままつぶやく。
「サニーの言うとおりだ…」
「昴さん?!いいんですか?!」
ジェミニは納得できなかった。
あんなに新次郎をかわいがっていた昴がそんな事をいうなんて信じられない。
「もしも…新次郎がこの紐育の街や人を傷つけるような事があったら…一番悲しむのは彼自身だ…」
きつく拳を握って彼の事を想う。
すでに新次郎はサニーサイドを昏倒させている。
なんらかの力が残っているのだ。
無関係の誰かを傷つけたとなったなら、大河はきっと自分自身を許さない。
そして、彼を傷つける何者も、自分はきっと許す事が出来ない。
「…そうならないうちに新次郎を連れ戻さなければ」

 

 

 新次郎の体を借りた信長はセントラルパークを歩いていた。
子供が街中を一人歩くよりはいくらか目立たない。
「腹が減ったな…」
ふと目をやると、ホットドッグを売っているワゴンが目に入った。
「ふん、まああれでもいいか」
不適に笑って近づく。

 「おや、ぼうや一人かい?お父さんかお母さんは?」
こんなに小さな子供を放っておくのは法定違反だ。
ホットドッグ屋のおやじは心配になって聞いた。
だが、子供は返事をしなかった。
変わりに小さな手の平を広げて向ける。
「寝ておれ」
かわいらしい子供の声。
その声が耳に届いた瞬間、激しいめまいが襲って額に手を当てる。
「うおっ…」
うめいて膝をつく。
だが、それはほんの一瞬。めまいはすぐに収まって、
あっという間に何事もなかったかのようにいつもの体調に戻っていた。
「な…なんだったんだ…」
つぶやいて立ち上がると、先ほどまでいた子供はいなくなっていた。

 「うるさいぞ!まったく!食料を手に入れ損ねたではないか!」
自らの胸に手を当て、そこに相手がいるかのように不満を訴える。
「怪我などさせぬ!眠るだけだ。平民を殺してもなんの意味もないからな」
悪態を吐きながらベンチに腰掛けて背をあずけ、溜息をつきながら呟いた。
「少々自由を楽しみたいだけだ。だからしばらく好きにさせろ」

 信長に体の自由を奪われていたが、
今新次郎は完全に意識を失っているわけではなかった。
彼が誰かを傷つけようとすると、言いようのない何かがチクチクと、感覚のないはずの心に痛みを与える。
その度に必死で静止を訴えたが、次にうまく行くかはわからなかった。
もちろん新次郎は事態を正確に把握してはいなかったが、
夢の中で自分が悪い事をしようとしているのに、止める事が出来ずにただ眺めているような、
そんな気分だった。

 

 

 信長は少し先を歩いている少女に目を留めた。
正確には、少女が手に持ったポップコーンに。
とにかく空腹だったのだ。
何をするにもまずはエネルギーが必要だった。
さきほど無理に歩いたせいで余計に腹が減っていた。
彼女の正面に立って微笑む。

 さっきのように、手の平を向けると、少女はにっこりと笑った。
「ぼく、どうしたの?一人きり?」
こんな所を一人でうろうろしている男の子は迷子かもしれないと、脅かさないようにやさしく微笑む。
思わず動きを止めてしまった彼に、持っていた紙のカップを差し出して、
笑みを絶やさないまま、なおも話しかけて来た。
「食べる?」

 

 

 

 シアターでは、その場の人員を総動員して新次郎を探していた。
星組やワンペアの一同はもちろん、メカニックの人々も捜索に加わっていた。
彼が遠くに行ってしまう前になんとしても探し出さなければならない。
昴は焦燥感に駆られる心を押さえつけ、彼らの一人ひとりに指示を出していた。
同じ場所を何度も探しても意味がない。
今は無駄な動きをしている場合ではないのだ。
自分が探しに行きたくて、焦りで心が締め付けられる。
必死で感情を殺し、何度も己に言い聞かせた。
「自分が出来る最も有効な事をやれ…昴…」

 「ねぇ、昴、ここはわたしがやるから、あなたも探しに行きなさいよ」
同じようにデータのやりとりをしていたプラムが笑って言った。
「しかし…効率を…」
「効率よりも大事な事があるでしょう?あなたはタイガーにそれを教えてもらったのじゃないの?」
昴は驚いて彼女をじっと見つめる。
「泣きそうな顔よ。昴」
そう言われて、昴は立ち上がった。
「うん…。実は泣きそうだ」
無理に微笑むその顔は、たしかに涙を堪えていた。
「…新次郎を探しに行きたい。ここをまかせてかまわないか?」
「もちろんよ。タイガーをちゃんと連れて帰ってきてね」
昴は頷くと、彼女に向かって頭を下げた。
「ありがとうプラム。必ず…連れて戻ってくる…!」

 

 

 

 

 

 

泣きそうです。
ファイトです。

TOP 漫画TOP

エサを撒いて置くと戻ってくるかもー。

inserted by FC2 system