復活の日3

 

 警官は新次郎を抱いてシアターへと向かった。
子供は自分が保護者の下へと帰れそうな雰囲気を感じ取ったせいか、
泣き止んで、自分を抱いている警官に、にこにこと笑いかけている。
男の子らしく、おまわりさんが好きなのだ。
「ぼうや、お名前は?」
「たいが、しんじろうです!」
元気に言ってしがみつく。
「タイガーか、かっこいいな」
褒められて、嬉しそうな新次郎の頭を警官は優しく撫でた。
素直でかわいらしい。

 シアターが見えてくると、新次郎は大喜びだった。
「すばるたんのおしごとのところですよ!」
興奮して手足を動かすので、警官は彼を下ろした。
今日は公演日ではなかったが、中に人はいるのだろうか。
そっと入り口を覗くと、なにやら中の人たちはバタバタと騒がしく駆け回っていた。
声をかけていいものか少々悩んで、しばらく様子を伺っていると、
玄関から中を見る警官に気がついた、スーツ姿の美しい金髪の女性がドアを開けてくれた。
その女性を警官は知っていた。
今は引退しているが、シアターのスタァだったラチェット・アルタイルだ。
「なにかごようかしら?申し訳ないのですけれど、今取り込み中で…」
あこがれの女優を目の前に少々緊張する。
「こちらに九条昴さんはいらっしゃるかな、昴さんの知り合いだと言う迷子の子供を案内してきたんだけど」
そう告げると、とたんに騒がしかったホールがシンとなった。続けて一気に大騒ぎになる。
「新次郎を?!」
「大河さんは無事なんですか?!」
「しんじろー!」
「おーい!昴!警官が新次郎を連れて来てくれたって!」

 「新次郎!」
奥から駆け込んできたその人に、警官は目を見張った。
本物の九条昴。
舞台を見たことはなかったが、神秘的な人物だと言う噂は聞いていた。
今その人は必死な様子で自分の前に立ち、肩で息をして視線を向けてくる。
走り回っていたのだろうか。
「こ…こんにちは…」
少々髪が乱れていたが、東洋の黒真珠と評される美しさにドキドキと鼓動が鳴った。

 「新次郎は…新次郎はどこに…?!」
「え?ここに…」
一緒にシアターに来たのだ。
だが、さきほどまで足元に立っていた子供はどこにも姿が見えなかった。

 

 

 「ふぅ…ぎりぎりだったな…」
あそこで掴まってしまっては、せっかくの自由が台無しだ。
新次郎は振り返ってLLSの巨大な唇を仰ぎ見た。
「趣味が悪い」
つぶやいて歩き出す。
さきほどよりも気分がいい。体の扱いにも慣れてきたようだった。
とりあえずは見つからない場所へと移動しなければ。

 「新次郎!」
昴は叫んでシアターから飛び出した。
さっきまでそこにいたのならば遠くへは行っていないだろう。
確証はなかったが、おそらく、彼の意識を支配しているのは大河の封じた信長だ。
サニーサイドを眠らせた力といい、その時にかわした会話といい、間違いない。
早く。早く取り戻さなければ。
周囲を素早く見回して、付近を駆け回る。

 「昴…」
ラチェットはその様子を見て、シアターに残る他のメンバーにも声をかけた。
「みんなも、まだ遠くには行っていないはずだから探しましょう」
そう言って、皆が動き出したのを確認し、警官に向き直る。
「彼の様子がどんなだったか教えて下さる?」
「どんな…?」
警官はしばし考えるようなそぶりをしたが、一瞬だった。
「普通の、迷子でしたよ?最初はベンチで眠っていたけれど、声をかけたら起きて大泣きして…」
「ここの場所をあの子が言ったの?」
「いいえ…でっかい口の建物だって、昴さんの名前を…」
それでわかったのです、と丁寧に答えた。

 「そう…ありがとう…もしまた見かけたら連れてきてくださる?」
やさしく聞かれて警官は真剣に頷いた。
「もちろんです。申し訳ない…」
彼女達の様子から察するに、ずっとあの子供のことを捜していたのだろう。
再び見失ってしまったのは自分のせいだ。

 

 

 

 周囲をあらかた探してしまい、全員がシアターへと戻った。
昴はまだ探したがったが、サジータが腕を掴んで連れ戻したのだ。
「もう近くにはいないよ…」
「しかし…早く見つけないと…!」
ラチェットに、警官が新次郎を見つけた時の様子を聞いて、心が痛む。
「泣いていたのか…」
彼自身の意識が戻っただろうか。
「かわいそうに…!」
そこへ、サニーサイドが下りてきた。
「シアターにいる人間総動員でとりあえず探そう、ただ…」
いつも陽気な彼が言い難そうに目を伏せる。

 「ただ…なんだサニー」
「わかっているんだろう?昴」
サニーサイドは顔をあげて言った。
皆は双方を交互に見た。
さっぱりわからない。

 昴は俯いて話し出した。
「信長が新次郎を支配しているのなら…彼を…」
言葉が続けられずに飲み込む。
そのまま歯を食いしばって目を伏せた。
それを見て、サニーサイドは仕方なく自分で続ける。
「うん…大河君を敵と判断する事になる可能性がある」

 

 

 

 

黒ちびピンチ。

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もうちょっとだったのに…おしかった

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