復活の日 2

 「遅い…」
昴は楽屋をイライラと動き回った。
「落ち着かないねぇ…」
その様子をサジータはさらにイライラと見つめた。

 「サニーサイドの奴!練習が終わる前に戻すと言ったのに!」
風呂に新次郎を連れて行ったきり帰ってこない。
我慢できずに屋上へ向かう。
脱衣所の外から大声を出す。
「サニー!まだ出ないのか?!」
返事はない。
シンと静まり返っている。
昴は不審に思った。
中に人の動く気配がなかったから。
「サニー?!新次郎?!」
入り口のドアを叩く。
「開けるぞ!?」
細く開けそっと覗くと、サニーサイドが腰にタオルを巻いたまま伸びていた。

 「サニー?!」
駆け寄って肩を掴む。
呼吸はしっかりしているし、外傷は見当たらなかった。
寝ているだけのように見える。
「起きろ!サニー!新次郎はどこだ!?」
普通の状況ではない。
不安が這い登ってきて、昴の鼓動が早くなる。

 「う…うーん…」
「サニー!」
目を覚ました彼を乱暴に揺する。
「ちょ…昴…そんなに揺すらないでくれ…」
「新次郎はどこだ!?」
必死で問いただす。

 サニーサイドは状況を簡潔に話した。
新次郎がホクロがなくなったと深刻な様子だった事。
風呂から出たとき、すっかり別人のようになっていたこと。
その時の会話の内容。

 「痣…五輪の痣がなくなっていたのか!?」
「ごめん、見なかったんだけど…そうだと思うよ」

 昴は自分の額を押さえた。
彼は小さくなっても胸の下に五輪の痣を持っていた。
本来の彼には子供の時分、痣はなかったはずだが、
おそらく彼が五輪の戦士だと判明した、その状況までは変わらないという事なのだろうと、
深く考えずにいた。
「それで、新次郎はどこに…?!」
一刻も早く彼を見つけなくては。

 

 

 新次郎の体を借りた信長は一人、紐育の街を歩いていた。
特に行くあてはなかったので、当面の資金を調達しようと考える。
銀行を探して彷徨っているうちに、足がずきずきと痛み出して顔をしかめた。
「幼すぎるな、この器は」
ベンチに腰かけ、息をついて靴を脱ぐ。
そのとたん、胸を押さえて体を折り曲げた。

 「くっ…早いな…」
うめいてベンチに倒れこむ。

 

 

 「ぼうや!大丈夫かい?!」
「んん…う〜ん…」
新次郎が目を開けると、周囲には数名の大人たちが心配そうに自分を覗き込んでいた。
先頭に立っているのは警官だ。
「よかった、目が覚めたみたいだ」
ほっとした表情で新次郎の頭を撫でた。

 「ぼうや、どこから来たの?ご両親は?」
それまで目覚めたばかりで呆けていた新次郎は、そう言われてハッと顔を上げた。
きょろきょろとあたりを見渡す。
ウォール街には一度も来た事がなかった。
まったく知らない風景に、心が波立つ。
「ふえ…」
たちまち涙が盛り上がって溢れて零れだす。
「ああ〜ん!すばるたん!」

 泣き出してしまった新次郎を、大人たちは困惑顔で見下ろした。
「迷子かな?」
警官は、怖がらせないようにそっと彼を抱き上げた。
体が浮いて、新次郎はピタリと泣き止んだ。
しらない人物に抱かれて緊張したのだ。

 大きな目を見開いて固まってしまった子供に、警官はやさしく話しかける。
「おうちがどこかわからない?」
「すばるたんのおうち…」
ひっくとしゃくりあげながら言う。
「すばる…ねえ…他にわからない?」
新次郎は必死だった。
ここで場所が伝わらなければ一生帰れないのではないかと不安が這い登る。

 「すばるたんは、おおきいおくちのところで、おしごとです」
そう言われて、警官はますます困惑した。何一つ意味が分からない。
だが、横で聞いていたギャラリーの一人がポンと手を打った。
「シアターじゃないか?」
それを聞いて、全員がああと納得した。
「リトルリップシアターか!たしかに大きい口だ。では、すばるってのは九条昴の事かな」
だが、九条昴とこの子がどんな関係があると言うのだろう。
そういえば、この子供も日本人のようだった。
「本当に、九条昴さんの所でいいの?」
警官が聞くと、新次郎は嬉しそうに頷いた。
「すばるたんですよ!」
だが、次の瞬間悲しそうな顔に変わる。
「しんぱいしています…」

 警官は新次郎を抱いて歩き出した。
とりあえずシアターに連れて行って、本当に九条昴と知り合いなのか確かめさせなくては。

 

 

 

 

帰れるでしょうか。
あー…どうしよう…(また言っている)

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アハー。

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