復活の日 1

 「んん……」
深夜、傍らで眠る子供がわずかに声を出したので、昴は目を覚ました。
新次郎は小さな眉を寄せて身じろぎしている。
「どうした…?」
起こさないようにそっと額に触れる。
熱はない。
「うう…ん…」
苦しそうに寝返りを打つ。

 昴は心配になってベッドから下り、彼を抱き上げた。
やさしく揺すりながら声をかける。
「どうした新次郎…」
しばらくそうしていると、徐々に呼吸が深くなり、
やがて再びやすらかに寝息を立て始めた。

 昴は息を吐いて彼をベッドに寝かせ、
自分はその傍らに座った。
少し汗ばんでいる額に、軽くカーブしながらかかる髪を、やさしくかきあげてやって微笑む。
「怖い夢でも見たのかな…?」

 翌朝目覚めた新次郎を、昴は注意深く観察したが、
彼はいつもと変わらない様子だった。
朝食も普段どおりに食べている。
昨夜、何か夢をみたのかどうか、聞こうかとも思ったが、
もしも思い出して怖い思いをしてはかわいそうだ。
だから昴は何も聞かなかった。
その時はあとで後悔する事になるなどとは思ってもいなかったから。

 いつものように新次郎を伴って出勤し、
めずらしく昼間仕事がないと言うサニーサイドに彼を預けた。

 サニーサイドはその日昼から露天風呂に入ることにした。
夜には行きたくもないパーティの予定が入っていたから。
昴から預かっている小さな隊長の入浴係としては、
今のうちに彼を洗ってしまわないと都合が悪い。
新次郎を抱いて脱衣所へと向かう。

 いつも新次郎は自分で服を脱ぎ、畳んで籠に入れた。
スーツを適当に放り込んでいくサニーとは大違いだ。
だが、その日新次郎は服を脱ぐと、自分の体を見下ろしてじっとしていた。

 「どうかしたのかい?大河君?」
「さにーたん、さにーたんはほくろがどっかいっちゃったりしますか?」
「ほくろ?」
聞くと、新次郎は頷いて、真剣な顔でサニーを見た。
「はい。しんじろーのほくろ…とられちゃった…」

 湯船に浸かってからも、新次郎は不安そうにしていた。
さっきの話に何か関係があるのかと、サニーは気になってきた。
こんな悲しげな顔の彼を昴に返しては、何か文句を言われるかもしれない。
「大河君、ホクロをとられたって、誰にとられたんだい?」
新次郎はサニーサイドをじっと見た。
「きのう、ゆめのなかにおじちゃんが…じゃまだから、それをよこせって…」
「ホクロが?」
新次郎は頷いた。
「あさ、ちゃんとあったから、だいじょうぶだとおもったのにな…」
心配そうに目を伏せる。
「ホクロぐらいなくったって平気さ、僕だってホクロが消えたり移動したりするよ」
笑って言って、ぐしゃぐしゃと彼の頭をかき混ぜる。
「肉体のエンターテイメントさ」
陽気に言った。

 だが、新次郎はあまり回復しなかった。
「でも…」
たかがホクロでこんなに消沈するとは、やはり小さな時から繊細だったんだなと、
サニーは苦笑した。
「だいじだったんですよ…」
「大丈夫さ、ホクロなんかない方がつるつるスベスベで良いぐらいだよ」
「なくなったら、いけなかったのに…」
何がそんなに重要だったのだろう。
「どうしてなくなってはいけないのかな?」
「わかんないですけど…」
それっきり黙る。
あとで昴に話した方が良いかも知れない。
彼の様子はなかなかに深刻だった。

 脱衣所で、サニーサイドは体を拭きながら、自分で服を着ている新次郎に目を向けた。
そういえば、聞いていない。
「ところで大河君、どこのホクロがなくなったんだい?」
返事はない。
ただ黙々と服を着ていく。
いつもよりもスムーズに、無駄のない動きで。
「大河君?」

 振り向いたその瞳に、サニーサイドは息を呑んだ。
いつもの、無垢な瞳ではない。
怪しく輝く邪悪な光。
「…黒子ではない…痣だ…」
「大河君…」
サニーサイドは一歩下がった。
「心配せずとも長くは借りられぬ。少なくとも今はな。だがしばらくは自由にさせてもらおう」
言って、手を伸ばす。
小さな手の平を広げてサニーサイドへと向ける。
「邪魔だ。眠っておれ」

 

 

 新次郎は屋上へと出て息を吸った。
「やはり新鮮な空気は直接吸うに限る」
満足げに笑う。
そうかと思うと、次には胸に手を当て不満そうにつぶやく。
「うるさいぞ。大人しくしていろ」
その表情は、大河新次郎、その人の持ちえない邪悪な物だった。

 

 

 

 

 

あーどうしよう…。

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サニーは裸で伸びてます

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