お泊り 1

 

 「で、昴、ディナーショウの件だけど…」
「断る」
支配人室でサニーサイドに言われて、新次郎を抱いた昴はきっぱりと宣言する。
「いや…断るって言われても、もう決まっちゃった事だから…」
「政治家のディナーショウなど、僕でなくともその辺のジャグラーでも呼べば済む」
今朝、サニーサイドの所に急な依頼が来た。
とある大物政治家が、選挙の当選祝いにディナーショウを開くから、
昴に公演を頼みたいと言って来たのだ。
予定していたエンターテイナーが急病で来られなくなったと言うのだ。
「夜だけなら考えても良かったが…」
朝食もぜひ一緒にと、好意で伝えてきた。
「とにかく、夕方には出発しないと間に合わないから、支度よろしく」
言うだけ言うと、サニーサイドは去っていこうとする。
「断ると言っているんだ!」
彼の背中に向けて怒鳴った。
「すばるたん…?」
怒っている様子の昴に、新次郎は不安そうに声をかけた。
「ああ…ごめん…」
あやまって頭を撫でている間には、もうサニーの姿は消えていた。

 昴は溜息を吐くと、楽屋へ向かった。
もう依頼を取り消せないことはわかっていたのだが、
それでもなんとかしたかったのだ。
新次郎をじっと見る。
彼を連れて行くわけには行かない。

 「で?!やっぱり行くんだろ?!」
昴が楽屋に入るなり、サジータは身を乗り出して声をかけた。
「え?昴さん、どこかに出かけるんですか?」
ジェミニは事情を知らなかったので聞いた。
「一泊でお仕事に行かれるのですよね?」
ダイアナもどこかウキウキとした様子だ。
「いいなー!昴!リカも行きたいぞー」
リカは、仕事だと言う事が今一つわかっていない。

 ジェミニは、サジータやダイアナが昴の出張を楽しそうにしているのを見て、不思議になって首をかしげる。
当の昴は溜息を吐いて、深刻な様子なのに。
「それで…」
昴が話し始めようとすると、サジータは勢い良く手を上げた。
「あたしが預かるよ!」
「あ!サジータさん、ずるいですよ…私も、立候補いたします」
ダイアナも控えめに手を上げる。
リカはわけがわからないのに、皆に参加したくて手を上げた。
「リカもー!はーい!」
「しんじろーも!はーい!」
つられて新次郎も手をあげる。
ジェミニだけが意味がわからずに目を丸くする。
昴は苦々しげにつぶやいた。
「僕はまだ何も言っていない…」

 「言わなくたって知ってるさ…」
サジータはにやりと笑った。
「あたしにまかせな」
「この間サジータさんは、大河さんと仲良く遊んでいらしたじゃないですか…今度は私が…」
「ねえねえ、なんの話なんですか?」
ジェミニは我慢できずに聞いた。
「今夜、僕は出張で家をあける…新次郎を一晩預かって欲しいんだ」
昴は仕方なく言った。

 それまで楽しそうな皆にまざってにこにこしていた新次郎が、驚いた表情で昴を見上げた。
「すばるたん…おでかけなんですか…」
今にも泣き出しそうだ。
みんな心配になって彼を見つめた。
「ごめんよ新次郎、ここにいる時とはわけが違う。僕が出ている間、君を頼める人がいないんだ…」
「おしごとですか?」
「うん、断ったんだけど、どうしても行かないとならなくなってしまったんだ」
彼の目を見て話す。
ちゃんと話せば、小さい子供でも大人の事情を理解することが出来る。
特に新次郎は見た目の幼さよりもずっと賢しい子供だった。

 新次郎は泣かなかったし、それ以上何も言わなかった。
ただ、無言で昴にしがみついた。
「みんなごめん、ちょっと出てくる」
昴は彼を抱いて部屋を出た。
新次郎が何も言わないので、かえって心配になってしまったのだ。

 「すばるたん…」
廊下に立って彼の頭を撫でていると、新次郎が声を出した。
「しんじろーはいけないんですね…」
「うん…誰かの家に一日だけ泊まって来て欲しいんだ」
彼の額にキスを落とす。
「だれかのおうち…」
「ごめん、明日は急いで戻ってくるから…」
髪をそっと撫でると、新次郎は頷いた。
「だれかのおうちで、おるすばんしてます。おみやげ、かってきてくださいね」
「ああ、沢山、買ってきてあげるよ」
微笑んでもう一度キスを贈る。
この子はいつも、聞き分けが良すぎて不安になる。
こんなにかわいらしくていい子では、大人になった時にやって行けないのではないか。
自分の考えに笑う。
たしかに大河はお人よし過ぎるし、女の子みたいにやさしげな容姿も気にしているようだった。
でも、自分が知っている中で、最も愛すべき人間。

 楽屋に戻ると、皆はなにやら言い争っていた。
「あたしが最初に手を上げたんだから、あたしが連れて帰るよ!」
「そんなのダメですよ!ボクなんて何にも知らなかったんだから!」
「そうですよ、不公平です」
「リカも!しんじろーとお泊りするー!」
めちゃくちゃだ。
だが昴は彼女たちを黙らせる、良い言葉を知っていた。

 「新次郎、君は誰の所に泊まりたいんだい?」
抱いている彼に直接聞く。
とたんに全員の視線が小さな彼に集まった。
「さにーたんのおうち!」
迷わずに言った。
今度は苦笑交じりの視線が昴に集中する。それはないと皆が思ったのだ。
「新次郎…サニーの所はだめだ…そこ以外で…」
昴は目を閉じた。
あの男はいまだに隠れて新次郎に食物を与えようとする。
それ以外でも、何かと遊んでやってくれているのは事実だが、
泊まりにやるのはさすがに気が進まない。

 「さにーたんはだめだったんですか…」
少しだけ気落ちした表情で新次郎は皆を見渡した。
「じゃあ、だれのところでもいいです」
他のメンバーは皆同じように好きだった。
以前はサジータが少し苦手だったが、本当はそんなに怖い人ではないと分かって来た。
母親代わりの昴と、
お風呂に入れてかまってくれるサニーだけが、別格だったのだ。

 「じゃあ、じゃんけんにしませんか?」
ジェミニが提案した。
「お、いいねえ、あたしはここぞと言う時の勝負には負けたことがないよ」
「私も、それで文句はありません」
「リカもジャンケンするぞ!」
4人の意見がまとまった。
だが、昴は微笑んでリカに言った。
「リカ、申し訳ないけれど、リカの家には新次郎は泊まれないよ」
「なんでだ?」
不満そうに聞いてくる。
「リカはまだ小さいから、新次郎を抱き上げられないだろう?」
言うと、残念そうに頷いた。
「新次郎はハンモックにも乗れないしね」
笑って彼女をいたずらっぽく見る。
「でっかいしんじろーも乗れないしな!いしししし」

 「ジャンケンは侍らしく、一回切りの真剣勝負ですよ!」
ジェミニはまじめな顔で宣言する。
「のぞむ所さ!」
「うふふ…それでかまいませんよ」
新次郎は昴の腕から降りると、みんなの顔を見上げた。
「しんじろーもじゃんけんにまぜてください!」
無邪気に言った。
にこにこしている彼に、皆が緩んだ顔で彼を見た。
今日は新次郎をテイクアウトできる最初で最後のチャンスかもしれない。
絶対に、自分の家につれて帰る!
改めて全員の闘志が燃える。
「…新次郎…こっちにおいで…」
昴は思わず笑ってしまうそうになった。
「これから、一番ジャンケンが強かった人の家に、君が泊まることになるようだよ」
本当はそんな決め方をして欲しくなかったが、
昴にとっても、3人は同じように信頼できる友人だった。
だから、たとえジャンケンで決まっても変わりはないと考えたのだ。

「じゃあ行くよ!勝負だ!ジャンケン!」

 

 

 

 

 

 

 

ジャンケン勝負の行方は完全にランダムで決めたいと思います。
どうやって決めようかな…
今、私がサイトを見た時に、カウンタの末尾が、1.2.3だったらジェミニ4.5.6だったらダイアナ
7.8.9だったらサジ。
0だったら翌朝に持ち越し。
見てまいります…。
はい…決まりました(笑)
結果は次回…

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ちびじろーが…

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