守護者 1

 

 昴は新次郎を連れて5番街を歩いていた。
いつ元に戻るかわからない彼の服を、もう数着買わなければならないと思ったからだ。
手を繋いで歩きながら、どんな服を買うか小さい彼と相談しながら歩いていた。
「すばるたん、しんじろーは、もうぼたんもじぶんでできますよ」
彼は今まで和服しか着た事がなかったはずだが、
ここに来てからはずっと洋服なので、それらの着こなし方もわかってきたようだった。
「すごいな、新次郎は」
心から褒める。
とたんにうれしそうな笑顔になる新次郎を、思わず抱き上げた。
手を繋いでいるだけでは物足りない。

 「あっすばるたん、きょうは、しんじろーもあるくんですよ!」
注意されて苦笑した。
「そうだったね」
仕方なく彼を下ろす。
買い物を沢山するから、今日は抱っこもおんぶも出来ないと、出かける前に言ってしまったのだ。
買ってから言うんだった。

 いつも利用しているブランド店に入ると、男性の店員が笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ、九条様」
この店には子供用の服も置いてある。
昴は店の奥まで進んで、男児用の衣類のコーナーを見て回った。
「新次郎、これなんかいいと思うんだが…」
一着を手にとって見せる。
「ぼたん、ついていないですね…」
せっかく出来るようになったボタンが付いている服が着たいらしい。
「それでしたら、こちらなどはいかがですか?」
店員がつきっきりで昴の世話を焼いた。
彼が見せてくる何点かは、実際に色もデザインもなかなか良かった。

 「新次郎、お兄さんが、これはどうかって聞いているけど、君はどう思う?」
ほんの小さな子供に意見を聞く昴を見て、店員の顔がほころんだ。
通常このような場合、保護者は勝手に子供の服を選ぶ。
新次郎を見るやさしいまなざしに、つい、普段昴が一人で来店している時と全然表情が違うな、などと観察してしまう。
「この、あおいやつがいいです!」
数点ある服の中から、新次郎は晴天の空のような深いブルーのシャツを選んだ。
たしかに彼の黒い髪に良く似合うだろう。
「何着か選んで良いんだよ」
昴が言うと、新次郎は考え込んだ。
「すばるたんは、どれがいいですか?」
「そうだな…」
こうやって彼と買い物をしていると、本来の大河新次郎といるような気持ちになって来る。
今、大きな彼も一緒に居てくれたらいいのに。

 昴は何点か服を選んで新次郎に見せた。
「これとこれが、僕は新次郎に似合うと思うんだけど?」
「じゃあ、しんじろうもそれがいいです」
あっさりと決定したのでそれらの衣類を店員に渡し会計を済まそうとすると、彼はそっと声をかけて来た。
「九条様…まことにお伝えし難いのですが…」
昴はどうしたのかと怪訝な目で店員を見つめる。
「店の外に、九条様がお出になるのを待っていると思われる方々が数名いらっしゃるようです」
それを聞くと、昴は壁の影からそっと外の様子を伺った。
たしかに、自分のファンと思われる女性が何人か、
興奮した様子で店の外に立っているのが、ショーウィンドウの向こうに見えた。
何度か見たことのある顔なので間違いないだろう。
「どうしたんですか?」
新次郎は首をかしげて昴を見上げた。
「なんでもないよ…でもちょっと困ったな…」
5番街にあるようなブランドショップには、買い物をしない客は通常入ってこられない。
だから、彼女たちも店の中までは入ってこられないのだ。

 「彼女たちが帰るまで、少しここに隠れさせて貰ってもかまわないだろうか…」
昴は店員に申し訳なさそうに言った。
男性店員は微笑んで頷く。
「もちろん、ゆっくりして下さって結構ですよ」
「迷惑をおかけして申し訳ない」
表の彼女たちの分まで心を込めて謝罪する。
新次郎はそんな昴の様子を見て、心配になった。
「おうちにかえれないんですか?」
「大丈夫だよ、あの人たちがいなくなったらすぐに帰ろうね」
彼を抱き上げて頭を撫でる。

 だが、10分が経ち、20分が経ち、30分が経過しても、彼女たちはあきらめなかった。
待ちきれずに店の中に入ってきそうな雰囲気さえある。
「すばるたん、ごはん…たべにいけないですね…」
本当は帰宅する前に、レストランに寄って食事する予定だったのだ。
こんな事は予想の範囲内だったのに、
何も準備していなかった自分に腹が立つ。
しょんぼりしている新次郎を見て、店員は二人が気の毒でなんとかしてやりたいと考えた。
「九条様、もしよろしければ、私のサングラスをお貸ししますから、裏口からお出になられては?」
変装してはどうかと提案したのだ。
それを聞くと昴は彼を見上げて苦笑した。
「そんな気遣いまでして貰うわけにはいかない」
だが、店員はにこやかに微笑む。
「私の私物でございますから」
昴は新次郎を見た。
彼は店に椅子を借りて座っていたが、足をぶらぶらとさせて退屈そうにあくびをしている。
「では、このコートも頂こう」
昴は手近にあった男性用のカーキ色のロングコートを店員に渡した。
「サングラスだけでは見破られてしまう」

 

 

脱出作戦。
昴さんは本当に目立つと思います。
黒い髪。そして足が!!!

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アレが欲しい!と泣くシーンはなさそうです…。くそう良い子新次郎め…。

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